最新記事

宇宙

約135億光年先、これまで見つかった銀河で最も遠い天体「HD1」が発見される

2022年4月13日(水)17時31分
松岡由希子

約135億光年先の宇宙で明るく輝く銀河の候補HD1が発見された...... (Credit: Yuichi Harikane et al.)

<これまでに見つかった銀河のうち最も遠方に位置する「HD1」と名付けられた天体が発見された......>

約135億光年先の宇宙で明るく輝く銀河の候補が発見された。「HD1」と名付けられたこの天体はこれまでに見つかった銀河のうち最も遠方に位置する。

東京大学宇宙線研究所、早稲田大学、米ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)、宇宙望遠鏡科学研究所(STScl)らの国際研究チームは、ハワイ島にある国立天文台のすばる望遠鏡、南米チリのパラナル天文台のVISTA望遠鏡、ハワイ島に設置されているイギリス赤外線望遠鏡(UKIRT)、NASA(アメリカ航空宇宙局)が2003年に打ち上げたスピッツァー宇宙望遠鏡(SST)が計1200時間以上にわたって観測した70万個以上の天体データを分析し、「HD1」を発見した。その研究成果は、2022年4月8日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。

予想される135億光年先の銀河の特徴と驚くほど一致

研究論文の筆頭著者で「HD1」を実際に発見した東京大学宇宙線研究所の播金優一助教は「『HD1』の赤い色は、予想される135億光年先の銀河の特徴と驚くほどよく一致している」と分析する。

赤い色は「赤方偏移」と呼ばれ、光源が我々から遠ざかるときに光の波長が長くなる現象だ。時空間の距離が長くなるほど「赤方偏移」は大きくなるため、これによって光が我々に到達するまでに移動した宇宙論的距離を計算できる。

研究チームは、チリ・アタカマ砂漠の「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)」を用いて分光観測を行い、「HD1」が134.8億光年先に存在することを確認した。これまで最も遠い銀河とされてきた133.8億光年先の「GN-z11」よりもさらに1億光年遠い。

「HD1」は紫外線で非常に明るい。これはつまり「HD1」のような明るい天体がビッグバン(大爆発)からわずか3億年後の初期の宇宙に存在していたことを示唆している。

HD1-Timeline-1024x.jpeg

宇宙の歴史と初期の銀河候補(Credit: Harikane et al., NASA, EST and P. Oesch/Yale.)


スターバースト銀河(高速で星を形成する銀河)か?

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのファビオ・パクチ博士らは、4月7日付の「王立天文学会月報(MNRAS)」に発表した研究論文で、「HD1」について2つの仮説を示している。

そのひとつが「『HD1』は驚異的な速度で星を形成し、いまだ観測されたことのない宇宙のごく初期の『種族Ⅲ』の星たちの故郷かもしれない」という説だ。研究チームは当初、「HD1」をスターバースト銀河(高速で星を形成する銀河)ではないかと推測し、「HD1」がどれだけの星を生み出しているか計算した。

その結果、「HD1」は1年に100個以上の星を形成していることがわかった。これは予想されるよりも10倍以上多い。パクチ博士は「『種族Ⅲ』の星は現代の星よりも質量が大きく、明るく、高温であった」とし、「これらが『HD1』で形成されたとすれば、このような性質を説明しやすくなる」と指摘する。

超大質量ブラックホール(SMBH)が含まれている?

一方で、「『HD1』には太陽の約1億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(SMBH)が含まれているのではないか」との説も示されている。「HD1」が大量のガスを飲み込むことで高エネルギー光子がブラックホールの周辺から放出され、これによって「HD1」が非常に明るくなっている可能性があるという。

NASAが2021年12月に打ち上げたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)では「HD1」も観測のターゲットとされている。「HD1」はまだ多くの謎に包まれているが、今後の観測によってその解明がすすみそうだ。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中