最新記事

認知症

貧しいと認知症になりやすい 研究結果

Living in a Poorer Area Increases Your Risk of Dementia, Study Says

2022年3月30日(水)15時57分
シーラ・リ・バートフ

水も緑もない環境は脳にも悪い Armand Burger-iStock.

<裕福な地区に暮らす人々は、貧しい地区に暮らす人々と比べて記憶力が良く、認知症リスクも低いという研究結果が出た。いったいどういうことなのか>

オーストラリアで行われた研究によると、認知症のリスクと住んでいる地域の社会経済状況とは相関関係があるようだ。

3月25日付で「JAMAネットワーク・オープン」に発表されたモナシュ大学の研究では、40〜70歳の成人4656人を対象に、2016〜2020年の健康データを調査した。4656人はオーストラリアのさまざまな地域に暮らしており、認知症などの主要な神経疾患と診断された人はいなかった。

調査の結果、裕福な地区に暮らす人々は、貧しい地区に暮らす人々と比べて記憶力が良く、認知症リスクのスコアも低かった。

裕福で安全な地区とそうでない地区における記憶力の差は、高齢者においてより顕著だった。しかしより恵まれない地区においては、中年期でも、認知症リスクの高さと「記憶力における微妙な差」が見られる、と研究チームは結論している。

世界保健機関(WHO)によれば、全世界の認知症患者は5500万人を超えており、毎年1000万人近くが新たに発症している。医学誌「ランセット」に発表された2020年の研究では、認知症の40%は、危険因子を改善することで予防または進行を遅らせることが可能だと判明している。

住んでいる地域の社会経済的背景と、住民が認知症になるリスクの関連性には、多くの社会的・環境的・心理的要因が影響している可能性がある。

例えば、米国立老化研究所(NIA)、米国立衛生研究所(NIH)、米環境保護庁(EPA)の共同研究によれば、医療と緑地は、高齢者を認知症のリスクから守るとされており、貧しい地域はその両方へのアクセスが難しい。

公共プールや緑地は大事

また、中国の研究チームが米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した研究では、大気汚染が認知機能の低下と結び付けられているが、大気汚染も貧しい地域の方が深刻な傾向がある。また、健康的な食事と認知機能の上昇には相関関係があると複数の研究が示しているが、多くの場合、健康的な食品はより高価だ。

人の安心感や、コミュニティーの結びつきに影響を与える「犯罪や社会不安」も、貧しい地区における住民の認知症リスクを高めている可能性がある。さらに、複数の研究によれば、社会的な不利益や差別、経済的な逆境に起因する慢性的なストレスも、人の脳をむしばむ。ストレスと相関するホルモンであるコルチゾールが大量に分泌され、神経毒作用を発揮するためだ。

モナシュ大学の研究を率いたマシュー・ペイス教授はプレスリリースの中で、認知症リスクにおける不平等を是正するには、さらなる研究が必要だと述べている。

「健康的な生活習慣は、認知症リスクを減らす鍵を握る要素であり、すべての人が、ジムや公共プール、緑地、医療機関などの地域施設にアクセスできることが重要だ。現在は、必ずしもそうはなっていない」
(翻訳:ガリレオ)

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中