最新記事
経済制裁

経済制裁でロシアのエネルギー支配は揺らぐか

Russia's Government Can Keep Running Despite NATO Sanctions, Ruble Collapse

2022年3月2日(水)19時19分
ジョン・ジャクソン

ウクライナ侵攻を受け、世界最大の石油会社エクソン・モービルは1日、ロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」(写真)からから撤退すると発表した Sergei Karpukhin -REUTERS

<西側の金融・経済制裁で通貨ルーブルは史上最安値を更新したが、ロシアにはまだエネルギー収入の抜け道がある。だがロシアでのエネルギー開発から撤退する石油メジャーが相次ぐなど、支配体制に揺らぎも見える>

経済制裁がロシア経済を麻痺させ、モスクワの株式市場も一時取引停止に追い込まれるなか、ロシアの通貨ルーブルは2月28日、過去最安値を更新した。だが、ロシアが金融面で苦境に陥ったとしても、世界屈指のエネルギー供給国という立場のおかげで、ロシア政府は、軍事作戦の資金を今後も賄える可能性がある。

米国は28日、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア中央銀行への制裁を含む追加措置に踏み切った。2月24日未明に始まったロシアのウクライナ侵攻に対して実施されたすべての制裁措置により、ロシアではインフレが昂進し、投資家のロシア離れが進むはずだが、ロシア政府の機能停止までにはは至らないかもしれない。

「エネルギー関連の取引は、厳しい金融制裁から除外されるだろう。欧州へのエネルギー供給を継続させるためだ」。米国ワシントンのシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のシニア・フェローで、貿易と制裁の専門家であるジェフリー・ショットは、本誌にそう語った。

米財務省が28日に出した指令ではロシアに対する制裁が強化されたが、ロシアが関係するエネルギー関連の多くの取引は6月まで認められた。

バイデン政権は、ロシアのエネルギー取引に対して制裁を行えば、天然ガスなどのエネルギー価格がいっそう高騰するおそれがあると警告していた。米政府当局は、世界のエネルギー供給を乱す措置はとらないという決定を下したのだ。

ロシアに栄養補給続く

ピーターソン国際経済研究所のショットは、「欧米の制裁は全体として、ロシア政府とその軍事作戦の資金を枯渇させることを目的としている。エネルギー取引に関するこの適用除外は、当面、ロシアにとって栄養補給チューブになる」と言う。

新たな制裁によってロシアが金融面で痛手を受けることは間違いないが、2022年に入った時点で、ロシアには潤沢な資金があった。ロシアは2021年を、ほぼ70億ドルの財政黒字で終えた。専門家らは、その財政的な成功の理由として、税収の増加、予想よりも速いパンデミックからの経済回復、石油の高値を挙げている。

石油と天然ガスの売上は、2021年におけるロシア総予算の36%にあたる。ロシア中央銀行によれば、2021年におけるロシアの石油・ガスの輸出総額は4898億ドルに達したという。

米国も、「プーチンの石油」に大きく依存してきた。2021年に米国が輸入した石油のうち、ロシアからの供給量は、サウジアラビアに次ぐ第2位だ。ロシアのエネルギー資源に依存することを通じてロシアに資金を提供している国は米国だけではない。ウクライナ侵攻以前は、欧州が輸入する天然ガスのおよそ40%はロシア産だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然

ビジネス

米連邦地裁、マスク氏の棄却請求退ける ツイッター株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中