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薬剤耐性薬剤耐性による死亡数、脳卒中、心臓病に次ぐ規模だった
薬剤耐性による死亡数は世界で年間127万人、関連死は495万人にのぼる...... microgen-iStock
<同じ抗生物質を使用し続けると「薬剤耐性菌」が生じて、既存薬が効かなくなることがある。このような「薬剤耐性(AMR)」は世界的な課題となっている......>
抗生物質は細菌による感染症の治療に広く用いられ、多くの人々の生命を救ってきた。しかし、同じ抗生物質を使用し続けると細菌がこれに適応し、耐性を獲得した「薬剤耐性菌」が生じて、既存薬が効かなくなることがある。このような「薬剤耐性(AMR)」は世界的な課題となっており、これまでの予測では2050年までに年間1000万人が薬剤耐性で死亡するとみられている。
薬剤耐性による死亡数、脳卒中、心臓病に次ぐ規模だった
米ワシントン大学らの研究チームは、4億7100万人の個人記録を用いた統計モデルにより、世界規模での薬剤耐性の影響を初めて包括的に分析した。病原体23種と病原体と薬剤の組み合わせ88パターンに関連した2019年時点での204カ国の死亡数を推定し、2022年1月19日、医学雑誌「ランセット」でその研究成果を発表している。
これによると、薬剤耐性に直接起因する死亡数は127万人で、その関連死は495万人にのぼる。これは、2019年時点で脳卒中、心臓病に次ぐ規模で、年間死亡数86万人のエイズ(後天性免疫不全症候群)や年間死亡数64万人のマラリアよりも多い。
肺炎などの下気道感染症での薬剤耐性は最も影響が大きく、これによって40万人以上が死亡し、関連死は150万人を超えている。
対象とした病原体23種のうち、大腸菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎レンサ球菌、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌の6種だけで、薬剤耐性により92万9000人が死亡し、その関連死は357万人にのぼった。たとえば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に直接起因した死亡数は2019年時点で10万人を超える。
子どもは特にリスクが高い
薬剤耐性菌がもたらす影響は地域によって異なっている。サハラ砂漠以南では薬剤耐性による死亡のうち20%が肺炎桿菌、16%が肺炎レンサ球菌によるものであった一方、高所得国(HICs)では26%が黄色ブドウ球菌、23%が大腸菌による。
薬剤耐性は低中所得国(LMICs)に特に深刻な影響をもたらしている。地域別でみると、薬剤耐性による全年齢死亡率はサハラ砂漠以南の西部で10万人あたり27.3人と最も高く、豪州、ニュージーランドを中心とするオーストララシアで6.5人と最も低かった。
また、薬剤耐性は全年齢層にとって脅威であるものの、子どもは特にリスクが高い。薬剤耐性による死亡の約2割を5歳未満の子どもが占めている。
研究論文の共同著者でワシントン大学医学部保健指標評価研究所(IHME)のクリス・マレー教授は、一連の研究成果について「薬剤耐性の世界的な規模を真に示し、『この脅威に対処するために今すぐ行動しなければならない』と警鐘を鳴らすものだ」とし、「薬剤耐性に対して先手を取りたいならば、これらのデータを活用して軌道修正し、イノベーションを推進するべきだ」と説く。
研究論文では、薬剤耐性に対処する具体的な戦略として、徹底した感染症の予防、抗生物質の乱用の抑制、新しい抗生物質の開発への投資を提唱している。