最新記事

中国経済

北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり

China’s Economy Is Heading Toward Stagnation, Not Collapse

2022年2月3日(木)18時40分
ダイアナ・チョイレーバ(英調査会社エノドエコニミクスの主任エコノミスト)
習近平

オリンピック・タワーのスクリーンに映し出された習近平(2021年1月21日、北京冬季五輪に向けたメディアツアーで) Tingshu Wang-REUTERS

<輝かしい北京2度目の五輪の成功後、習近平が号令する中国経済は、40年来の成長と利益をドブに捨てることになるかもしれない。成長と利益をもたらした鄧小平の教えを否定した上、「共同富裕」というイデオロギーを目標に据えているからだ>

中国はまたもや新記録を打ち立てようとしている。2008年の夏季五輪の開催都市・北京では、2月4日から冬季五輪が始まる。夏季と冬季の五輪を開催した史上初の都市だ。雪不足も何のその、中国共産党は目的達成のためには55発のロケット弾で人工雪を降らせるなど文字どおり山をも動かす勢いだ。

しかし習近平(シー・チンピン)国家主席は今、人工雪を降らせるよりもはるかに困難な課題に直面している。安定成長を維持しつつ、所得格差を減らす「共同富裕(みんなで豊かになろう」の実現だ。

2001年に143番目のメンバーとして中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して以来、中国経済に対する外部の観測筋の見解は常に両極端に引き裂かれてきたようだ。際限なく成長を続けるとの超楽観的な見方と、経済危機が中国共産党支配の終わりの引き金を引くという不吉な予言だ。中国の不動産部門が苦境に陥ったこの1年には、欧米のメディアの一部が「事態は予想以上に悪化している」と伝える一方で、中国モデルは安泰だとの観測も聞かれるなど、両方の見方が入り乱れた。

だが現実ははるかに複雑で、予測が外れた場合の損失は日増しに増大しつつある。過去40年間の中国の成功──世界第2位の経済大国となり、多くの国々にとって最大の貿易パートナーとなった目覚ましい成長ぶりは決して侮れない。一方で、中国の人々が期待し、外国の投資家や政府が当てにするようになった華々しい高度成長が今後も続くと思うのも楽観的すぎる。

毛沢東に近い資質を発揮

前回、北京の五輪会場に聖火が灯ったときには、習は五輪の最終段階の準備を指揮していた。その後に政権を握った習の指導下でじわじわ進んだ政治と経済の変化のおかげで今や、鄧小平の改革開放の成功を支え、高度成長の原動力となってきた重要な要素が損なわれかねない事態になっている。これまでの40年間、中国共産党の失墜はなかったものの、中国式の開発モデルは最も厳しい試練に直面している。

毛沢東の革命の実現を担った中国共産党は、鄧の指導下で劇的な変化を遂げた。民間部門の活性化のために資本家階級の誕生を容認。旧ソ連圏と明暗を分けた鄧の徹底した実利主義は、当時も今も驚嘆に値する。鄧の後を継いだ2人の最高指導者はマルクス主義と実利主義の間で絶妙なバランスを取る鄧の、G難度級の離れ業を忠実に守った。

2012年に最高指導者となった習は、共産党エリートの子弟を意味するいわゆる「太子党」の1人で、党の伝統と矛盾の申し子とも言うべき人物だ。父親の習仲勲(シー・チョンシュン)は毛と共に共産党創設のために闘ったが、毛に粛清され、鄧の下で名誉を回復されて、市場経済導入に辣腕を振るった。ところが、その息子の習近平は政権の座に就くや、実利主義の鄧よりも強権的な毛に近い資質を発揮、共産党と自身の支配を正当化し、長期的に権力を握ることに心血を注ぐようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中