厳格なイスラム社会「だからこそ」、サウジに蔓延する麻薬問題の根深さ
Middle East's Drug Capital
サウジ政府は、カプタゴン取引がシリアやヒズボラ(サウジの宿敵イランの影響下にある)の懐を潤していることに警戒感を示している。だが、それよりも心配なのは、こうした依存性薬物がサウジの若者に与える影響だ。
サウジの麻薬常用者の過半数は12〜22歳の若者で、依存症患者の40%がカプタゴンを利用している。カプタゴンの流入を断つために近隣諸国に脅しをかけることはできても、娯楽がほとんどない厳格な社会で、若者の麻薬需要を抑えるのは至難の業だ。
実際、一部の専門家は、退屈な上に、社会的な制約が厳しいことが、若者を麻薬に向かわせているとして、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の改革を歓迎する。映画館が増えて、男女の交流が許されるようになれば、麻薬依存は低下するというのだ。
密売には死刑のリスクもあるが
その一方で、音楽コンサートの開催や、女性の自動車運転解禁といった社会改革は、超保守的な文化との衝突を引き起こし、その結果、むしろ麻薬利用の急増をもたらしているという指摘もある。つい最近のある書評は、若者のライフスタイルは欧米的になり、「歓楽効果を増幅」する薬物の乱用が拡大していると断じている。
だが、実際には、ムハンマドの改革前から麻薬は蔓延していた。手に入りやすいことと、こうした薬物に対するイスラムの立場が明確でないこと、そして娯楽活動の欠如が大きな原因だ。
アラブ人のリード(仮名)は、サウジに留学した経験がある28歳。現在は居住許可の更新手続き中で国外にいる。彼はリヤド時代を振り返り、「もちろんみんな麻薬をやっていた。それしかやることがないからね」と語った。「とんでもなく退屈な毎日だ」
「女の子に話し掛けることはできないし、映画も行けない。パブにビールを飲みに行くのもダメ。スターバックスでコーヒーを飲み、ドライブをし、ショッピングモールのレストランに行くくらいしか娯楽はない。それさえも男だけだ。みんなアフガニスタン産の大麻を吸っていた」
サウジでは麻薬密売が見つかれば死刑になる可能性があるが、若者による使用は軽い処分で済むことがほとんどだ。チャットと大麻が受け入れられているため、イスラムでは麻薬の使用が認められていると考える若者も少なくない。
それだけに、麻薬の有害な影響を社会に知らしめるのはサウジ当局にとって難しい課題だ。また、麻薬の流通や使用に関わっている富裕層を取り締まるのは、もっと難しい。
密輸業者も、どんどん新しい手口を考える。サウジがレバノンからの農産物の輸入を禁止すると、家具や水道管にカプタゴンを隠して運び込もうとする業者も出てきた。
どんなに宗教的な規範が厳しく、法的制裁があっても、サウジが麻薬を一掃するのは無理だろうと、リードは言う。ただし、サウジ社会が開放的になれば話は別だ。「最近サウジを訪れると、変化を感じる」と彼は言う。「少しだけよくなった。でも、サウジにとっては、それは『すごくよくなった』と呼べる変化だ」
彼は今、レバノンに住んでいる。おそらくサウジの人々が消費する大麻の産地だ。カプタゴンもそうだろう。「でも、ここでは麻薬なんてやる必要がない」とリードは言う。「生活は楽しいから」
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