最新記事

経済政策

【浜田宏一・元内閣参与】MMTは「フグ料理のよう」と安倍前首相...「料理人」次第で美味にも猛毒にも

The Power and Poison of MMT

2022年1月18日(火)19時40分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)

220125P32_MMT_02.jpg

コロナ後の経済再生を目指し、昨年11月に成立したインフラ投資法案に続き、BBB法案をぶち上げたバイデンだが、財政再建派の抵抗は根強かった JONATHAN ERNSTーREUTERS

確かに、アメリカの政策立案者もこうした投資、特にインフラ投資の重要性は認めている。昨年11月には超党派の支持を得て1兆ドル規模のインフラ投資法案が成立し、送電網の整備、鉄道の刷新、高速インターネット回線の拡充などに予算が投じられることになった。だが民主党の一部議員でさえ、これらの公共事業の費用は全て税収で賄うべきだと主張した。MMT(もしくはFFT)のロジックに対する財政再建派の抵抗はかくも根強いものなのだ。

ただし断っておくが、MMTとFFTは同義語ではない。MMTにはFFTにない要素が2つ加わっていて、私の考えでは、それらは健全とは言えない。1つは、中央銀行は政府の景気対策を助けるような金融政策を実施すべきだというもの。例えば金利を低いままに抑えるといった政策だ。

その背景には、通貨供給量ではなく、金利こそが重要な変数だというポスト・ケインズ経済学の発想がある。それはストックとフローの相互作用と期待インフレの役割を重視する従来の経済学の考え方とは相いれないものだ。

それ以上に問題なのは、金利が低く据え置かれると物価が上がり始め、インフレが過熱しかねないことだ。MMTの支持者は、増税により総需要を管理して物価上昇を制御できると言うが、そんなやり方で抑えられるほどハイパーインフレは甘くない。

「フグ料理のようなものだね」

2つ目の不健全な要素は、完全雇用を維持するために政府がインフレ圧力を緩和しつつ、雇用保障を提供すべきだと主張していること。こちらはさらに問題だ。この主張は社会主義に傾斜しすぎていて、政府が労働市場に過剰に介入することにもつながる。

かつて私が安倍晋三元首相にMMTについて説明すると、彼はフグ料理のようなものだね、と言った。名人がさばけば美味な一品となるが、料理人の手元がちょっと狂えば、食べた人は毒にあたって死ぬ。

これは実にうまい例えだ。政策立案者がMMTの有用な部分、つまりFFTを採用するなら、今の世代と未来世代にさらなる繁栄をもたらす新たな選択肢が生まれる。だが下手な料理をすれば、致命的な結果となりかねない。

©Project Syndicate

KOICHI_HAMADA_profile.jpg[著者]浜田宏一 KOICHI HAMADA
経済学博士、米エール大学名誉教授。内閣府経済社会総合研究所長などを経て、安倍内閣で情報提供や助言を行う内閣官房参与を務めた。近著に『21世紀の経済政策』(講談社刊)。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中