「巨大テック企業を取り締まる」が世界のコンセンサスになる日
A RECKONING FOR BIG TECH?
ここにきて中国も巨大テクノロジー企業への姿勢を転換させ始めている。中国共産党は長年、国内のテクノロジー企業を厳しく規制することを避けてきた。自国のテクノロジー産業を成長させ、国際的優位を確立するためだった。中国のテクノロジー産業は、それと引き換えに、ネット検閲への協力など、共産党の求めに応じてきた。
しかし、中国政府は最近、国内の格差を問題視し、自国のテクノロジー企業が国家よりも強大な存在に成長しつつあるのではないかという懸念も強めている。こうした新しい状況の下、中国指導部は、テクノロジー企業に厳しい姿勢で臨むようになっている。
中国当局は21年4月、競争を阻害するビジネス慣行を理由に、電子商取引大手のアリババに28億ドル相当の制裁金を科した。当局は、インターネットサービス大手のテンセント(騰訊)にも制裁金を科し、世界の有力音楽レーベルとの契約により獲得していた独占的な権利を手放すよう命じ、子会社である2つのゲーム動画配信会社を合併させる計画に待ったをかけた。
今後の展開が最も予想しやすいのはEUだ。デジタル市場法が実施されれば、欧州委員会は数々の反トラスト法関連の捜査を進めやすくなる。
不透明なのはアメリカの動向だ。最近の動向を見ると、アメリカの保守的な裁判所は、フェイスブック(現メタ)やアマゾンが独占企業だという主張を簡単に受け入れるつもりはなさそうだ。それに、党派対立の激しい米議会が意見を擦り合わせて有意義な法律を作れるかも分からない。
皮肉なことに、中国政府の規制強化がアメリカでの規制強化に道を開く可能性がある。中国で規制が強化されれば、アメリカの規制強化がアメリカのテクノロジー企業の国際競争力を奪うという主張が論拠を失うからだ。
中国政府がテクノロジー企業への締め付けを強めることは間違いない。問題は、どれくらい規制が強化されるかだ。中国が世界のテクノロジー超大国になるためには、自国のテクノロジー産業を力強く繁栄させる必要がある。しかし、中国政府はそれ以上に、社会の調和も実現したい。
この2つの要素のバランスをどのように取るかは、今後長きにわたって中国当局の重要な課題になるだろう。
いずれにせよ間違いないのは、テクノロジー企業への規制強化の動きが世界の新しいコンセンサスになりつつあることだ。EU、アメリカ、中国だけでなく、オーストラリア、インド、日本、ロシア、韓国、イギリスといった有力国も相次いで規制強化に向かって動いている。
巨大テクノロジー企業と政府の戦いは、長く続きそうだ。そして、その戦いの帰趨は全ての国に影響を及ぼす。
(筆者の専門は、国際・比較法学。EU法、国際通商法、反トラスト法に詳しい。著書に『The Brussels Effect 』〔未訳〕がある)
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら