最新記事

ISSUES 2022

「巨大テック企業を取り締まる」が世界のコンセンサスになる日

A RECKONING FOR BIG TECH?

2022年1月20日(木)20時55分
アヌ・ブラッドフォード(コロンビア大学法科大学院教授)

ここにきて中国も巨大テクノロジー企業への姿勢を転換させ始めている。中国共産党は長年、国内のテクノロジー企業を厳しく規制することを避けてきた。自国のテクノロジー産業を成長させ、国際的優位を確立するためだった。中国のテクノロジー産業は、それと引き換えに、ネット検閲への協力など、共産党の求めに応じてきた。

しかし、中国政府は最近、国内の格差を問題視し、自国のテクノロジー企業が国家よりも強大な存在に成長しつつあるのではないかという懸念も強めている。こうした新しい状況の下、中国指導部は、テクノロジー企業に厳しい姿勢で臨むようになっている。

中国当局は21年4月、競争を阻害するビジネス慣行を理由に、電子商取引大手のアリババに28億ドル相当の制裁金を科した。当局は、インターネットサービス大手のテンセント(騰訊)にも制裁金を科し、世界の有力音楽レーベルとの契約により獲得していた独占的な権利を手放すよう命じ、子会社である2つのゲーム動画配信会社を合併させる計画に待ったをかけた。

今後の展開が最も予想しやすいのはEUだ。デジタル市場法が実施されれば、欧州委員会は数々の反トラスト法関連の捜査を進めやすくなる。

不透明なのはアメリカの動向だ。最近の動向を見ると、アメリカの保守的な裁判所は、フェイスブック(現メタ)やアマゾンが独占企業だという主張を簡単に受け入れるつもりはなさそうだ。それに、党派対立の激しい米議会が意見を擦り合わせて有意義な法律を作れるかも分からない。

皮肉なことに、中国政府の規制強化がアメリカでの規制強化に道を開く可能性がある。中国で規制が強化されれば、アメリカの規制強化がアメリカのテクノロジー企業の国際競争力を奪うという主張が論拠を失うからだ。

中国政府がテクノロジー企業への締め付けを強めることは間違いない。問題は、どれくらい規制が強化されるかだ。中国が世界のテクノロジー超大国になるためには、自国のテクノロジー産業を力強く繁栄させる必要がある。しかし、中国政府はそれ以上に、社会の調和も実現したい。

この2つの要素のバランスをどのように取るかは、今後長きにわたって中国当局の重要な課題になるだろう。

いずれにせよ間違いないのは、テクノロジー企業への規制強化の動きが世界の新しいコンセンサスになりつつあることだ。EU、アメリカ、中国だけでなく、オーストラリア、インド、日本、ロシア、韓国、イギリスといった有力国も相次いで規制強化に向かって動いている。

巨大テクノロジー企業と政府の戦いは、長く続きそうだ。そして、その戦いの帰趨は全ての国に影響を及ぼす。

(筆者の専門は、国際・比較法学。EU法、国際通商法、反トラスト法に詳しい。著書に『The Brussels Effect 』〔未訳〕がある)

©Project Syndicate

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中