最新記事

中国市場

テスラEV「新疆ウイグル自治区ショールーム新設」と習近平の狙い

2022年1月5日(水)18時07分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

太陽光パネルは、太陽光が当たっている間は良いが、日が沈んだ夜間には蓄電できない。その問題を解決したのが「溶融塩太陽熱発電」で、熱を保存して夜間も発電を行うことができる。

中国の国務院国有資産監督管理委員会によれば、昨年9月6日、<ハミのタワー型太陽熱発電所「Super Mirror」50MWがフル稼働開始>とのこと(ハミは新疆ウイグル自治区ハミ市のことだが、日本語ではクムル市とも言う)。

それによれば、14,500枚のミラーを張り巡らせて、反射した太陽光を、ミラーの中心にある「塩タワー」に焦点を当てて集光し、290度の塩を565度まで加熱して、その塩の熱で水を沸かして蒸気タービンで発電するという仕組みだ。

13時間の蓄熱システムが付属しており、これによって24時間稼働(発電)することができる。東方電気が新疆ウイグル自治区に開設したのは初めてだ。

<50MW溶融塩タワー式太陽熱発電所がオングリッド発電(電力ネットワークと接続)正式稼働>には、SFの世界を彷彿とさせる、ドローンで撮影した画像が数多くあるので、そこから引用した「溶融塩タワー太陽熱発電所」を以下に示す。

endo20220105162502.jpg
原典:中国のウェブサイト「快科技」

鏡の角度は、太陽の動きに合わせて、司令塔から自動的にコントロールして、常に最高光量の焦点が「溶融塩タワー」に当たるように微調整している。

新疆のクリーンエネルギー構想は、実は2016年9月に習近平が国家エネルギー局から発布させた「太陽熱発電プロジェクト」[2016]223号から始まっている。テスラの新疆におけるEV事業開発は、その一環ということができよう。

特にテスラのCEOイーロン・マスク氏(Elon Musk)は習近平の母校である清華大学経済管理学院顧問委員会の現役メンバーだ。

習近平とは仲が良い。

二人はしっかり連携しながら新疆スマートシティ構想を動かしているのである。

習近平の父・習仲勲は陝西省に延安という革命根拠地を築きながら、周辺の少数民増と生活を共にしていた。新疆、甘粛、青海などの周辺地域には習仲勲の思いが沁み込んでいる。

一方、中国のシリコンバレーとなった深センを最初に「経済特区」にしたのは習仲勲だ。深センと新疆の関連性はそこにある。

そこにテスラのEVを重ねていった。

習近平は、少数民族弾圧というジェノサイドのようなことをやる一方で、その先にSFまがいのスマートシティ構想を描き、その地域を経済発展させることによって国内人民の不満と国際社会からの批難を回避しようという国家戦略を描いている。

そのための新疆ウイグル自治区のトップ交代であり、このたびのテスラの新疆ウイグル自治区への事業展開なのであることを、見逃してはならない。

なお、習仲勲に関しては拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述したが、習近平の新疆スマートシティ構想を始めとした全ての国家戦略は、父親への思いを読み解いて初めて見えてくると確信する。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中