最新記事

火山噴火

1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可能性

Why the Volcanic Eruption in Tonga Was So Violent, and What to Expect Next

2022年1月20日(木)18時43分
シェーン・クローニン(ニュージーランド・オークランド大学地球科学教授)
トンガの火山噴火(衛星画像)

トンガの火山噴火で上がった噴煙(1月14日) Tonga Geological Services/REUTERS

<なぜあんな大噴火になったのか、今後は何が起こるのか>

南太平洋に浮かぶ島々から成るトンガ王国はいつもなら世界の注目を集めるようなことはない。しかし1月15日に起きた海底火山の大噴火では、この島国で発生した文字どおりの衝撃波が地球の半分を揺るがした。


この海底火山も普段はいたっておとなしい。トンガの首都ヌクアロファから北へ65キロほど船で進むと、海抜100メートル程の2つの小さな無人島フンガハアパイとフンガトンガが海面に顔をのぞかせている。その下に眠るのが、高さ約1800メートル、幅20キロにも及ぶ巨大な海底火山だ。

volcanochart1.jpeg筆者提供

島の名を合わせてフンガトンガ・フンガハアパイと呼ばれるこの火山は、ここ20年ほど何度か噴火を繰り返してきた。2009年と2014〜15年の噴火でも熱いマグマと蒸気が海上に噴出したが、今回の噴火はそれらよりはるかに大規模だった。

私たちが行ったこれまでの噴火の調査から、今回の噴火はざっと1000年に1度の大噴火と考えられる。

超音速の爆風が発生

海底火山の噴火では、マグマが海水に冷やされるはずなのに、なぜこれほど激しい爆発が起きたのか。

マグマがゆっくりと上昇すれば、たとえ約1200℃の高温であっても、マグマと海水の間に蒸気の薄い層ができて、これが断熱材となり、マグマの外側の表面が冷やされる。

だが地下に火山ガスがたまり、マグマが一気に噴出すると、この仕組みは働かない。マグマが急激に海中に噴き出すと、蒸気の層は吹き飛ばされ、高温のマグマが冷たい海水にじかに触れる。それにより海水が瞬時に気化して、体積が一気に増大し、水蒸気爆発が起きるのだ。

これは火山研究者が「燃料と冷却材の相互作用」と呼ぶ現象だ。極めて激しい爆発により、マグマの外側が吹き飛ばされると、内部のマグマが海水に触れて、さらなる爆発が起きる。このようにして連鎖的に爆発が繰り返され、ついには火山性粒子が大量に噴出し、超音速の爆風が発生する。

海底に眠る巨大カルデラ

2014〜15年の噴火で火山円錐丘が形成され、フンガトンガとフンガハアパイを結ぶ長さ5キロの島が誕生した。私たちは2016年にこの島を調査し、これまでの噴火は序章にすぎず、はるかに大規模な噴火がこれから起きると予想した。

海底地形の調査で、海面下150メートルに眠るカルデラが見つかった。

volcanochart2.jpeg筆者提供

このカルデラはクレーターのような窪地で、直径約5キロ。2009年、2014〜15年の噴火など、小規模の噴火は主にこのカルデラの周縁で起きるが、大規模噴火はカルデラそのものから発生する。大規模噴火では、噴出するマグマの頂部が内側に崩れ落ち、カルデラはさらに深く穿たれる。

小規模の噴火は地下にマグマがゆっくりとたまり続け、大規模な噴火を準備していることを示す兆候だ──過去の噴火の痕跡の化学組成を調べて、私たちはそう考えるようになった。

遠い過去の大噴火の痕跡

フンガトンガとフンガハアパイの堆積層から、フンガ・カルデラで過去に起きた2度の大規模噴火の痕跡が見つかった。私たちはその化学組成が、トンガ王国の首都がある65キロ先の本島・トンガタプ島に堆積した火山灰の化学組成と同じであることを突き止め、放射性炭素年代測定で大規模噴火が起きた年代を調べた。その結果、カルデラの大規模噴火は、およそ1000年に1度の周期で発生していて、前回は1100年に起きたことが分かった。

これに照らせば、今回の噴火は1000年に1度の大噴火と見てよさそうだ。

今はまだ一連の大規模な火山活動のさなかにあり、噴煙で島が覆われていることもあって、不明な事柄が多い。

2021年12月20日と2022年1月13日に起きた2度の噴火は中くらいの規模だった。噴煙が17キロの高さに立ち上り、2014〜15年の噴火でできた島が拡大した。

目覚めたフンガ・カルデラ

1月15日の噴火はそれらを上回る規模で、噴煙は高さ約20キロまで上がった。最も注目すべきは、噴煙が火山を中心に半径130キロの同心円状に広がったことだ。その後、噴煙は風に流されて形を変えた。

この噴煙の規模は、凄まじい爆発力を物語っている。その威力はマグマと海水の相互作用だけでは説明できない。ガスが充填した新しいマグマがカルデラから大量に噴出したと考えられる。

この噴火で、トンガの全ての島々、そして近隣のフィジーとサモアの島々も津波に襲われた。衝撃波は何千キロも伝わり、衛星からも観測され、およそ2000キロ離れたニュージーランドでも記録された。トンガタプ島では、噴火後まもなく空が真っ暗になり、火山灰が降り始めた。

これら全ての兆候は、巨大なフンガ・カルデラが目覚めたことを物語っている。津波は大気中と海中を伝わる衝撃波が合わさって起きるが、海底で発生した地滑りやカルデラの崩壊によっても起きる。


今回の噴火が一連の火山活動のピークかどうかはまだ分からない。マグマの圧力が大幅に放出されたのは確かで、それにより噴火が収まる可能性もある。

ただ、堆積層に残る過去の大噴火の痕跡を調べると、1000年に1度の大規模なカルデラ噴火は、複雑な連続的プロセスで、いくつもの噴火が別々に起きたと考えられる。

そのため私たちは、この海底火山では今後数週間、いや、ひょっとすると数年にわたって大規模な活動が続くこともあり得ると予想している。トンガの人々のために、この予想が外れることを祈っている。

The Conversation

Shane Cronin, Professor of Earth Sciences, University of Auckland

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中