気候変動による文明の滅亡に備えて、地球の今を記録する「ブラックボックス」
「アースブラックボックス」のイメージ図 Earth's Black Box
<気候変動などによって文明が滅亡する事態に備え、この時代に地球で何が起こっていたのかを後世に伝えるための「ブラックボックス」設置がすすめられている>
豪タスマニア大学、豪広告代理店クレメンジャーBBDO、クリエイティブ企業グルー・ソサエティの共同プロジェクトは、豪州本土の南方海上に位置するタスマニアで、長さ10メートル、幅4メートル、高さ3メートルの石柱状の「アースブラックボックス」の設置をすすめている。
気候変動や環境汚染などのデータを継続的に記録・保存
「アースブラックボックス」は、気候変動などによって文明が滅亡する事態に備え、この時代に地球で何が起こっていたのかを後世に伝えるべく、気候変動や環境汚染、種の絶滅などにまつわるデータを継続的に記録し、長期にわたって安全に保存する。
いわば、航空事故が発生した際の原因調査に備えて飛行機に装備されている「ブラックボックス」のようなコンセプトだ。大気中の二酸化炭素濃度、地温、海水温、海水の酸性度、土地利用変化、人口、エネルギー消費量などの定量データに加え、ニュース記事やSNSの投稿といった文脈情報も収集する。
厚さ7.5センチの鋼鉄製の「アースブラックボックス」は、片方の端部を固定し、他端を自由にする「片持ち梁」で設置される。大量の記憶装置がおさめられ、インターネットと接続し、関連する情報やデータをリアルタイムで収集する仕組みだ。必要な電力は、屋根に装着された太陽光パネルで発電してまかなう。開発者によれば、今後30~50年分のデータ保存に十分な容量が確保されているという。
Earth's 'indestructible' black box will hold climate change data, track progress
「アースブラックボックス」は2022年前半に竣工する見込みだ。すでに2021年11月には、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の開催に合わせて、ベータテストでデータの収集を開始した。公式ウェブサイトでは、その記録状況がライブで公開されている。
現代の「ノアの箱舟」、世界種子貯蔵庫や微生物版の構想も
文明の滅亡に備えて現代を後世に残そうという取り組みとしては、作物多様性を保護するべく2008年にノルウェー領スッピツベルゲン島で開設された「スヴァールベル世界種子貯蔵庫」が知られている。2018年には、米ラトガース大学の研究チームによって、微生物の多様性を保全する「微生物版ノアの方舟」の構想も示された。
Exploring the Arctic's Global Seed Vault
これらは最悪の事態が起こった際のバックアップの保護を目的としているのに対し、「アースブラックボックス」は、最悪の事態へ向かう世界の軌跡を記録し続ける。
クレメンジャーBBDOのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのジム・カーティス氏は、その狙いについて「もしも気候変動によって地球の機能が停止しても、この『ブラックボックス』があれば、残された人が一連の記録から学べる」と語る。また、グルー・ソサエティの共同創業者ジョナサン・ニーボン氏は、「『ブラックボックス』によって自分たちが記録されていると認識することで、人々の言動に影響がもたらされるはずだ」との期待も寄せている。