最新記事
医学

日本で「老化細胞」取り除くワクチン開発、加速する世界の長寿研究

Japanese Scientists Claim Vaccine Removes 'Zombie' Cells Behind 'Aging-Related Diseases'

2021年12月13日(月)17時42分
トーマス・キカ
開発イメージ

新しいワクチンはアルツハイマー病やパーキンソン病といった疾患の治療に道を開くかも知れない(写真はイメージ) Plyushkin-iStock

<長寿研究への投資熱と豊富な資金を背景に、老化との戦いは飛躍的な進化を遂げている>

老化や多くの病気に関係する「老化細胞」を除去するというワクチンを日本の研究グループが開発した。論文は学術誌ネイチャー・エイジング(電子版)で10日、公開された。

ジャパンタイムズによれば、開発したのは順天堂大学大学院医学研究科の南野徹教授率いる研究グループ。ワクチンを投与されたマウスは、加齢と共に蓄積される老化細胞(関節炎や動脈硬化といった病気と関連がある)が減ったという。

南野は「(ワクチンの)動脈硬化や糖尿病といった老化に関係する病気の治療への応用が期待できる」と語ったという。

老化細胞は時間の経過とともに細胞分裂を停止したが死滅していない細胞と定義され、有害な化学物質を放出して正常な細胞にダメージを与え、炎症を引き起こす。新たに開発されたワクチンが作り出す抗体はこの老化細胞に取り付き、(それを目印に)白血球によって除去するという。

ワクチンを接種したマウスは未接種のマウスに比べ、加齢による身体機能の低下がゆっくりになった。また、このワクチンは既存の老化細胞除去薬よりも副作用が少なく、効果も長続きするという。

老化に対する治療や対策は、多くの専門家が研究している分野だ。老化プロセスを遅らせたり加齢関連疾患を治療する方法の開発には、多くの資金が集まっている。

世界の研究者と投資家が注目する分野

「長寿(研究)への資金拠出に関心を持っている人は驚くほど多い」と、イェシバ大学医学部老化研究所のニア・バージライ所長は本誌に語った。「ものすごい金額が集まっている」

バイオテクノロジー企業のアルカヘストは2011〜14年にかけ、若いマウスの血液を老いたマウスに投与すると脳の健康が大きく改善するとの研究を複数発表。以来、血液中のたんぱく質の中から老化治療に使える可能性のあるものが約8000も見つかっている。

今年、アルカヘストは血漿製剤メーカーのグリフォルスに1億4600万ドルで買収された。両社はアルツハイマー病やパーキンソン病など老化と関係したさまざまな病気や症状の改善を目指す治療法の開発を続けており、これまでに第2相の臨床試験までこぎ着けたものが6つある。

もっとも専門家の中には、加齢関連疾患は科学と医療の進歩によってこの100年ほどの間に人間の寿命が急激に伸びたことの当然の結果だと考える向きもある。

「進化論的な見地から言えば、われわれ人類はそれほど長く生きるようにはできていなかったということだ」と語るのは、コロンビア大学医療センター遺伝発達学部長のジェラード・カーセンティだ。「老化は人類の発明品だ。人類以外の動物で自分の体、つまり自然をうまくだましおおせた種は1つもない。ゾウは100年生きるかも知れないが、100万年前から寿命は変わっていない。人類は自分の体の裏をかいたわけだ」

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、国産長距離ミサイルでロシア領内攻撃 成

ビジネス

香港GDP、第3四半期改定+3.8%を確認 25年

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、4人死亡・数

ビジネス

インタビュー:26年春闘、昨年より下向きで臨む選択
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中