最新記事

テクノロジー

塩粒サイズの超小型カメラが開発される

2021年12月8日(水)17時30分
松岡由希子

0.5ミリの塩粒サイズの超小型カメラを開発された...... Credit:Ethan Tseng,Nature Communications(2021)

<幅わずか0.5ミリの塩粒サイズの超小型カメラが開発された>

米プリンストン大学とワシントン大学の研究チームは、幅わずか0.5ミリの塩粒サイズの超小型カメラを開発し、2021年11月29日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」でその研究成果を発表した。

従来のカメラはガラスやプラスチック製の曲面レンズを使って光線を曲げ、ピントを合わせる仕組みとなっている。一方、このカメラは約100ナノメートルの円柱160万本からなる「メタサーフェス」と呼ばれる技術を採用し、50万倍もの体積を持つ従来のカメラ用レンズと同等に、鮮明なフルカラーの画像を撮影できるのが特徴だ。光波面全体を正確にとらえられるよう、円柱はそれぞれ異なる形状をなし、光アンテナのように機能する。

43_Fig1_HTML.jpeg

約100ナノメートルの円柱160万本からなる「メタサーフェス」を採用Credit:Ethan Tseng,Nature Communications

従来のカメラ用レンズで撮影した画像と画質は同等

このカメラの開発において画期的なのは、その光学面と画像を生成する信号処理アルゴリズムを統合的に設計した点だ。従来、メタサーフェスを採用したカメラが高画質で撮影するためには、実験室などの特殊な環境下でレーザー光を必要とする。

そこで、研究チームは、自然光下での性能を高めるべく、独自に開発した計算機シミュレーターを用いて、メタサーフェスが十分な精度で効率的に画像を生成するような円柱のモデルを作成した。このカメラが撮影した画像と屈折レンズ6枚を組み合わせた従来のカメラ用レンズで撮影した画像を比較したところ、画面の端がややぼやける点を除き、画質は同等であった。

matuoka20211208bb.jpg

これまでのマイクロカメラの画像(左)と開発された小型カメラによる画像(右)Credit:Princeton University,Researchers shrink camera to the size of a salt grain(2021)

このカメラのメタサーフェスは、標準的な半導体の製造方法と互換性のある窒化ケイ素をベースに作製されており、従来のカメラ用レンズよりも低コストで大量生産しやすいのも利点だ。

医療用ロボットを用いた内視鏡検査などに

このカメラは、疾病を診断・治療する医療用ロボットを用いた内視鏡検査、大きさや重量に制約のあるロボットのイメージングの向上などへの活用が期待されている。また、これをスマートフォンの背面に並べ、背面全体を巨大なカメラに仕立てることも可能だ。

研究チームでは、今後、このカメラに計算能力を加え、物体の検出をはじめとするセンサー機能を追加できるようにする方針だ。

Neural Nano-Optics for High-Quality Thin Lens Imaging

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中