日本政府「原発45基分を洋上発電」 意欲的な政策を外資が虎視眈々と狙うワケ
ここで強調しておきたい。この政府保証の原資は国民負担である。いまは電気代に上乗せされた「賦課金」で皆が負担している。洋上風力も何らかの形で国民負担になるだろう。本来であれば、国内事業者にお金が落ち、サプライチェーンにも資金が回り、それが経済循環することで国内経済に資する公共事業となるはずだ。
国民負担で外資が儲かるという構図になってしまう。これが「原発脳」、あるいは再エネ軽視を続けてきた国家戦略の代償と言える。当然、そのツケは国民が払わされることになる。
このような三つの理由から海外事業者にとって日本は非常に「おいしい市場」なのだ。
日本の洋上風力を守るために
防戦に徹する日本勢だが、辛うじて生き残る道は残されていると筆者は考えている。
政府が太陽光ではなく洋上風力を切り札としたのは、広い海洋面積というアドバンテージを生かすためだけではない。洋上風力発電の方が日本のもの作りの強みを生かせるという狙いがあるからだ。
太陽光パネルであれば、中国がサプライチェーンの大半に影響力を保持している。製造の中核をなすシリコンなどに日本勢が割って入る余地はほとんどない。しかし、洋上風力は風車を含む数万点もの部品が必要だ。裾野の広い産業であり、関連産業への経済波及効果は大きい。部品製造という形で日本勢が割って入れるチャンスはある。
洋上風力の世界トップ、イギリスも当初は欧州各国の投資と参入を受け入れながら自国の市場を成長させ、産業の復興につなげてきた。日本も勝ち筋を模索するのであれば、導入初期は外資が入り、幅を利かせるのは致し方ないとしても、サプライチェーンの中に日本企業が入り込み、利益を上げながら成長していくことが不可欠だ。
サプライヤーが日本のメーカーを支える構図を取り、日本の中にも競争性をもつ風車メーカーを再度生み出すことが不可欠だ。その中で発電事業者も成長し、イギリス同様、他国の市場を日本勢のタッグで取りに行くというストーリーを追求していく必要がある。政府が脱炭素を掲げるから従う、という受け身の姿勢では実現できない。
最初から日本勢がリードするに越したことはないが現実的ではない。臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の精神をしっかりもち、最終的には逆転劇を演出できるようグランドデザインが求められる。ここから日本勢の捲土重来(けんどじゅうらい)を期待したい。
前田雄大(まえだ・ゆうだい)
元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFIT 執行役員 CCO)
1984年生まれ。2007年、東京大学経済学部経営学科を卒業後、外務省入省。開発協力、原子力、大臣官房業務などを経て、2017年から気候変動を担当。G20大阪サミットの成功に貢献。パリ協定に基づく成長戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。2020年より現職。日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関「富士山会合ヤング・フォーラム」のフェローとしても現在活動中。自身が編集長を務める脱炭素メディア「EnergyShift」、YouTubeチャンネル「エナシフTV」で情報を発信している。