最新記事

植物

「小さな死のリンゴ」 下に立つだけで有害、ギネスが認めた世界一危険な樹木とは

2021年11月30日(火)18時20分
青葉やまと

誤って食べた医師は

危険な樹としてにわかに話題に上ることもあるマンチニールだが、その毒性は地元の人々以外に広く知られているわけではない。近年では旅行者が誤って食用してしまう事態が発生している。リンゴに似た外観に加え、熟したスモモのように甘い香りを漂わせることから、毒性を知らない人々が興味をもって口に運んでしまうことがあるようだ。医師でさえその被害に遭っている。

イギリスの医学誌『BMJ』では、実際に誤食してしまったという放射線顧問医師の体験談を確認することができる。カリブ海に浮かぶトバゴ島でのリゾートに出かけたというこの医師は、島で見かけたマンチニールの果実に興味を惹かれ、思わず手に取りかじってみたという。

「甘みがあって美味しかった」と彼女は一口目の感想を振り返るが、問題はそこからだった。「しばらく経つと口のなかにピリピリとした感触が起きはじめ、やがてそれは焼け付くような痛みへと変わり、引き裂かれるような感覚と喉の締めつけを覚えた」という。彼女に勧められ一緒に食べた友人も、同様の症状を示した。

数時間後には痛みは耐え難いまでになり、喉のなかにまるで大きな塊が詰まっているかのような錯覚さえ覚えたという。固形物はほとんど摂取できない状態となり、痛みは8時間かけてようやく弱まる気配を見せはじめた。医師は自身の経験を「恐ろしいものだった」と振り返っている。自身の体験をBMJ誌上で公開し、「マンチニールの樹は深刻な医療上の問題を引き起こすことがある」として注意を喚起している。

16世紀から現代に至るまで、マンチニールはさまざまな形で健康被害をもたらしてきた。南フロリダやカリブ海沿岸などを訪れる機会があれば、リンゴに似た樹には不用意に近づかないように気をつけたい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中