最新記事

ヨーロッパ

多数の難民を受け入れたスウェーデンが思い知った「寛容さの限界」

The Limits of Benevolence

2021年11月24日(水)12時17分
ジェームズ・トラウブ(ジャーナリスト)

その後スウェーデン人は学んだ。最も慈悲深い国でさえ、人助けには限度があることを。ここ数年、この国は犯罪の急増に頭を抱えている。スウェーデン国家犯罪防止評議会の報告書によれば、この国では過去20年で銃による殺傷事件の発生率がヨーロッパ最低レベルから最高レベルに増え、今ではイタリアや東ヨーロッパ諸国より高くなっている。

北アフリカからの移民2世が中心メンバーのギャング団が密輸などで手広く稼ぐようにもなった。

今や犯罪対策がスウェーデン政府の最重要課題だ。アンデションは演説で移民政策に触れる前に、ロベーン政権の成果として警察官の増員や刑務所の増設、刑法改正の草案作りなど治安強化を挙げた。

教育レベルや所得などあらゆる指標で、新参者が一般の国民に後れを取っているのは無理からぬことだが、驚くのは両者の差の大きさだ。

クルド系経済学者のティノ・サナンダジは著書で、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」だと指摘している。さらに「スウェーデンの子供の貧困の77%は外国にルーツを持つ世帯に起因し、公共の場での銃撃事件の容疑者の90%は移民系」だという。

もはや難民を歓迎する国ではない

こうした数字は今ではよく知られている。スウェーデンで15年に行われた世論調査では移民の増加を歓迎する人が58%に上ったが、今は40%だ。

スウェーデンはもはや難民を歓迎する国ではなく、そのように思われることも望んでいない。16年6月には長年の方針を転換して、難民の恒久的な庇護を停止。EUのルールに基づき13カ月または3年の一時滞在許可が与えられることになった。

これは15年秋に国内の受け入れ施設が物理的に足りなくなったことを受けた時限立法だったが、適用期間が延長されている。20年に受け入れた難民は、過去30年で最も少ない1万3000人だった。

スウェーデンの移民庁の高官は最近の論文で、難民の受け入れに冷ややかなノルウェーとデンマークが「難民や国際的な移民にどう対処するべきかという好例と見なされるようになった」と書いている。

右傾化しているのは、中道左派の社会民主労働党だけではない。中道右派の穏健党は、移民問題では保守のスウェーデン民主党と歩調を合わせている。

穏健派の外交官で元政府高官のダイアナ・ヤンセは、与党がスウェーデン民主党を傍流と見なし、彼らを「茶色く塗っている」と批判する(茶色いシャツを着たナチスの突撃隊になぞらえて「ファシスト」などと呼ぶこと)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中