最新記事
遺伝子「ほこりのような役に立たない斑点」は、すべての脊椎動物に共通するゲノムの構成要素だった
アゴヒゲトカゲの小さなマイクロ染色体が、大きなマクロ染色体の間に集まっている Image: Shayer Alam.
<鳥類と爬虫類ではマイクロ染色体が同じで、哺乳類は進化の過程で、マイクロ染色体を吸収したと思われることがわかった>
鳥類やカメ、ヘビ、トカゲなどの爬虫類の多くは、マクロ染色体とともに「マイクロ染色体」と呼ばれる多数の微小な染色体で構成された核型を持つ。染色体の間に散らばったちいさなほこりの斑点のようにも見えるマイクロ染色体は当初、染色体の劣化した断片だと考えられていた。
豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)やラトローブ大学らの研究チームは、トカゲ、ビルマニシキヘビ、ミシシッピ鰐、アオウミガメなどの爬虫類、ニワトリ、イヌワシ、エミューなどの鳥類、哺乳類のカモノハシ、コアラ、ヒトといった様々な脊椎動物を対象に、最新のDNA配列解析技術を用いてマイクロ染色体のDNA配列を整理し、それぞれを比較した。一連の研究成果は2021年11月1日、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表されている。
マイクロ染色体はすべての鳥類と爬虫類で同じだった
これによると、鳥類と爬虫類ではマイクロ染色体が同じであった。また、これらのマイクロ染色体は、脊椎動物と共通の祖先をもち、6億8400万年前に脊椎動物から分岐した脊索動物のナメクジウオとも同じであった。つまり、マイクロ染色体は古代動物のゲノムの要素であったと考えられる。
一方、哺乳類では、染色体の一部が複数のマイクロ染色体と並ぶカモノハシを除き、マイクロ染色体が完全に消失していた。有袋類やヒトを含む有胎盤哺乳類は、進化の過程で、マイクロ染色体を吸収し、混在させたとみられる。
研究論文の責任著者でラトローブ大学のジェニファー・グレイブ教授は「ヒトやその他の哺乳類の染色体は多くの『ジャンクDNA』で膨れ上がり、ごちゃまぜになっている」と解説する。
哺乳類の染色体は、「ジャンクDNA」で膨らんでいる
また、マイクロ染色体を細胞学的に観察した結果、物理的に相互作用しあう核の中心にマイクロ染色体が集まる傾向があった。何らかの機能的一貫性を示すものとみられる。
研究論文の筆頭著者でニューサウスウェールズ大学のポール・ウォーターズ准教授は「このような奇妙な動きは大きな染色体にはない」と指摘する。
一連の研究成果の意義について、グレイブ教授は「人間や他の哺乳類の染色体が、ノーマルというわけではなく、機能が特定されていないたくさんの「ジャンクDNA」で膨らみ、混ぜ合わされている。様々なゲノムを持つ哺乳類の種がなぜこれほど多く地球に生息しているのかを解明する一助になるだろう」と評価している。