最新記事

ライフサイエンス

オタマジャクシの体内に藻類を送り込み、光合成によって酸素を供給できた

2021年10月20日(水)17時50分
松岡由希子

藻類を注射後のオタマジャクシ SUZAN ÖZUGUR AND HANS STRAKA

<オタマジャクシの血流に藻類を送り込んで酸素を供給するという新たな手法の原理証明(PoP)に成功した>

独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)の研究チームは、オタマジャクシの血流に藻類を送り込んで酸素を供給するという新たな手法の原理証明(PoP)に成功し、2021年10月13日、オープンアクセス誌「アイサイエンス」で研究論文を発表した。

オタマジャクシに藻類を注入すると、速く効率的に酸素を供給できた

自然界では、藻類が光合成し、酸素や養分を海綿や珊瑚などの無脊椎生物に供給している。研究チームは「植物生理学と神経科学を組み合わせ、藻類の光合成によってカエルのような脊椎動物にも酸素を供給することはできないだろうか」と考えた。

実験では、アフリカツメガエルのオタマジャクシの心臓に、10マイクロリットルの緑藻「クラミドモナス」または藍藻「シネコシスティス」を注入した。藻類は心拍ごとに血流を通じて少しずつ動いてやがて脳に達し、半透明だったオタマジャクシは緑色になった。オタマジャクシに光を当てると、近くの細胞に酸素を供給しはじめた。

Researchers Inject Algae Into Tadpole's Heart


藻類が脳に行き渡ったのち、オタマジャクシの頭部を切り離し、細胞の機能を保持するために必要な栄養素が溶け込んだ酸素バブルバスにこれを置いて、その神経活動と酸素レベルをモニタリングした。

バスから酸素を枯渇させると神経は発火を止めて静止したが、頭部を照らすと15〜20分以内に神経活動が再開した。神経活動が再開するまでの時間は、オタマジャクシに藻類を注入しない代わりにバスの酸素を補給した場合と比べて約2倍短い。

また、復活した神経活動は、酸素が枯渇する前と同等もしくはそれ以上のパフォーマンスであった。つまり、一連の実験結果では、オタマジャクシに藻類を注入すると、速く効率的に酸素を供給できることが示されている。

他の研究のきっかけにつながる第一歩になる

研究論文の責任著者でルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのハンス・ストラカ教授は、今回の研究成果について「原理として成り立つことが必ずしも適用できるとは限らないが、他の研究のきっかけにつながる第一歩にはなるだろう」と評価している。

研究チームでは、今後、「注入された藻類が、免疫応答を引き起こすことなく、オタマジャクシの体内で生存し、酸素を産出し続けられるかどうか」について解明をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中