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抗がん剤虫に寄生する殺虫キノコ、漢方生薬「冬虫夏草」の成分を用いた抗がん剤が開発される
中医学ではがんや炎症性疾患の治療に用いられてきた IgorChus-iStock
<漢方の生薬「冬虫夏草」の含有成分「コルジセピン」由来の抗がん剤が開発された>
英オックスフォード大学と英バイオ製薬企業ニューカナは、中医学・漢方の生薬として伝統的に用いられている真菌「冬虫夏草(シネンシストウチュウカソウ)」の含有成分である「コルジセピン」由来の抗がん剤「NUC-7738」を開発した。
冬虫夏草は、昆虫の幼虫に寄生して栄養分を接種し、その幼虫から棒状のキノコを発芽させることで知られている。
抗がんの効果があるとみられていた漢方薬だが課題もあった
コルジセピンは「3'-デオキシアデノシン(3'-dA)」とも呼ばれる自然界に存在するヌクレオシド類似体で、抗がん、抗酸化、抗炎症の効果があるとみられて、中医学ではがんや炎症性疾患の治療に用いられてきた。
しかし、冬虫夏草から抽出されるコルジセピンを抗がん剤として用いるためには課題がある。まず、コルジセピンを「ヒト由来平衡ヌクレオシド輸送体1(hENT1)」によってがん細胞へと輸送させる必要がある。また、リン酸化酵素「アデノシンキナーゼ(ADK)」によって活性抗がん代謝物「3'-dAMP」に変換されなければならない。
コルジセピンは、代謝酵素「アデノシンデアミナーゼ(ADA)」により血液中ですぐに分解され、わずか1.6分で血漿で半減してしまうという欠点もある。これらの要因により、コルジセピンは抗がん代謝物を腫瘍に効率的に届けづらく、体内での実際の効力が大幅に減少してしまう。
そこで、「NUC-7738」では、「ヒト由来平衡ヌクレオシド輸送体1」によらずにがん細胞へアクセスできるようにするとともに、「アデノシンキナーゼ」が不要となるよう事前に活性化させた。また、「アデノシンデアミナーゼ」から保護する機能を備え、血液中で分解しづらくした。
効力は7〜40倍に
腫瘍学を専門とする医学雑誌「クリニカルキャンサーリサーチ」で2021年9月8日に発表された研究論文では、「NUC-7738」が様々なヒトがん細胞株でコルジセピンに比べて7〜40倍の効力を持ち、アポトーシスによって細胞死を促すことが示されている。
現在、英国の進行がん患者28人を対象に「NUC-7738」の第1相臨床試験が実施されている。初期データによれば、「NUC-7738」は忍容性が高く、抗がん作用の有望な兆候もみられるという。オックスフォード大学の研究チームでは、ニューカナとの提携のもと、「NUC-7738」の第2相臨床試験も計画している。