再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機
EUROPE’S ENERGY LESSONS
EUの誤算でロシア有利の状況に
そのため、この政策はいくつかの点でネガティブな結果を招いた。まず、日々変動するスポット価格を基準にした結果、天然ガスの価格支配力を持つロシア側の優位性が一段と高まった。ロシアはヨーロッパ向け天然ガスの最大の供給国であり、生産力には十分な余裕がある。だから供給量の調節によって、いくらでも市場価格を操作できる。
それだけではない。固定価格方式の排除は供給の安定を困難にする。天然ガスの生産とパイプライン敷設には巨額の投資と長年に及ぶ開発期間が必要だ。それほどの投資をする意欲はなかなか生まれないから、供給側の数は限られる。結果、ロシアの市場支配力が高まった。そのロシアが欧州地域への供給拡大に後ろ向きであることも、今回の危機の要因となっている。
ロシア産天然ガスの供給減を補うには割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすしかない。しかしLNGは従来から東アジア諸国が買っており、その価格水準はヨーロッパより高い。それでも買いたければ、ヨーロッパはアジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。
価格は市場原理に委ねると言いながら、EUはしばしば政治的な目的を優先してきた。総電力に占める再生可能エネルギーの割合を増やすよう加盟国に義務付けているし、電力会社が最も採算性の高い燃料(石炭)を使うことも許さない。しかも大半の国が電気料金やガス料金に規制を設けているから、電力会社はコストを消費者に転嫁できない。
問題はそれだけではない。太陽光や風力に頼る場合、発電量は天候に左右される。しかし電力会社は電力の安定供給と停電回避を求められているので、悪天候時のバックアップ用に在来の(つまり天然ガスや石炭を燃やす)火力発電施設も維持しなければならない。
言うまでもないが、そうした余剰発電能力の維持には費用がかかる。しかしその費用は、再生可能エネルギー事業者ではなく、電力会社が負担し、最終的には消費者に転嫁される。しかもエネルギー価格の上昇を受けて、イギリスを含む各国政府は新たに価格上限を設けた。これでは市場の自由を放棄したに等しい。
ヨーロッパは長期に及ぶ寒波の到来といった急激な電力需要増への対策を用意していない。自国内で電力不足が予想される場合、各国政府はどんな犠牲を払っても国内向けの天然ガスを確保しようとする。例えば厳冬となった2010年の初め、一部の国は国内の暖房用電力を確保するため、ルール違反を承知でパイプラインから他国向けのガスを抜き取った。今年もガスの供給量が落ち込んでいるから、同様な事態が起きる可能性がある。