最新記事
フィリピン

「ワクチン未接種者は寝ている間に強制接種だ!」 比大統領、ドゥテルテ節放つも虚しく響く

2021年10月13日(水)19時44分
大塚智彦
フィリピンのドゥテルテ大統領

ワクチン接種に行かない奴、こっちから接種しに行くぞ! Erik de Castro - REUTERS

<かつては国際政治を揺るがした東南アジアの雄も、いまやレームダックとなったのか>

フィリピンのドゥテルテ大統領が進まない新型コロナウイルスワクチン接種状況に業を煮やして「接種を受けたくない人にはこちらから就寝中の家に行き、強制的に接種する」と発言した。ドゥテルテ大統領はこれまでもワクチン接種率が上がらないことに苛立ち、未接種者に対して「刑務所行きだ」「国外追放だ」などと物議を醸す発言を繰り返してきた。

そうした「ドゥテルテ節」に国民もメディアも慣れてしまったのか、今回の発言も大きな問題とはなっておらず、大統領府も「単なる冗談だ」とコメントするだけで、2022年5月に大統領としての任期が切れるドゥテルテ大統領の影響力や威光にも陰りが生じているとの見方が有力だ。

「就寝中に家に入って接種する」

フィリピンの地元メディアによると10月11日夜のテレビ中継された閣議の席でドゥテルテ大統領は「多くの国民がワクチン接種を受けたくないことはわかっている。しかしワクチン接種を拒む人々は問題である」と感染拡大が止まらない状況の中で政府が積極的に進めているワクチン接種が成果をあまりあげていないことに不満を表明。

そして「そういう人が寝ている間に家に入って接種を受けさせようではないか。私が率先して実行するぞ」と発言したのだった。

大統領府のハリー・ロケ報道官は12日、ドゥテルテ大統領の閣議での発言に関して「単なる冗談だ」と一言コメントしただけだった。

過去にもワクチン接種率で苛立ち

ドゥテルテ大統領の暴言は2016年の大統領就任以降、たびたびメディアを賑わせてきた。最近はコロナの感染拡大に伴い、進まないワクチン接種に関する不規則発言が相次いでいた。

6月にはワクチン接種を望まない国民にたいしてフィリピンを出ていくように「脅迫」したほか、やはり6月にはテレビ演説で「政府の言うことを聞かない人々に私は怒っている」として「村落の指導者は接種拒否者の名前を記録するべきだ」と述べるとともに「ワクチン接種を拒むものは投獄する」とまで発言したのだった。

いずれのケースも大統領府が「大統領のいつもの冗談である」として国民やメディアに冷静な対応を呼びかける、というパターンが繰り返された。

低い接種率に焦燥感

フィリピンでは主に中国製ワクチンを中心に国民への接種が進められているが、6月時点で少なくとも1回の接種受けた国民は893万人で約6.1%にとどまり、7月には1回目を接種した人は10.22%、2回接種を受けた人は5.56%と低い水準で推移。8月には1日平均で接種回数が50万回と加速して合計接種数は900万回に達した。

しかし国民全体でみると1回の接種者は2913万人、26.7%と低く、東南アジアの中でも低水準にとどまっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中