最新記事

シリア内戦

15歳で戦場ジャーナリストになった少年が伝えるシリアの人々の苦しみ

A Young War Reporter’s Hopes

2021年10月1日(金)18時12分
ムハマド・ナジェム(シリア出身のジャーナリスト)
ムハマド・ナジェム

シリア内戦を現場からリポートしていた筆者。当時15歳だった MUHAMMAD NAJEM

<シリア内戦下で、爆撃と隣り合わせの生活を世界に発信し続けた少年。苦しんでいる人々の声をこれからも届けたい>

8歳になるまで、僕はごく普通の幸せな子供時代を母国シリアで送っていた。家族と一緒のシンプルな暮らしで、シリアは美しい国だった。

だが2011年、内戦が始まり、日々の暮らしは厳しいものとなった。僕らが住む首都ダマスカス近郊の東グータは政府軍に包囲され、避難することもできなかった。

シリア各地で爆撃やミサイルや化学兵器による攻撃が繰り広げられた。グータでも化学兵器が使われ、赤ん坊や子供や大人が世にも残酷な方法で殺された。僕は家族と、生き埋めになりませんようにと祈りながら防空壕で長い時間を過ごした。アサド政権は僕らの暮らす地域への食料や水、医薬品などあらゆる必需品の輸送を妨害した。

爆撃の恐れがあり、通学には危険が伴った。学校は何度も爆撃を受け、授業のために地下壕が造られた。

地下壕での授業は2年ほど続いた。だがWi-Fiはないし、子供にとってつらい環境だったから、結局は地上の校舎に戻った。爆撃も死も破壊も子供たちの心に大きな傷を残したが、それでも僕らは戦争のせいで教育の機会を失いたくなかった。だから学校に通い続けた。

13歳のときに父を爆撃で失う

15年、僕が13歳の時に父は爆撃で命を落とした。兄がジャーナリストだったから、僕もその仕事に関心を持った。そして家族と話すなかで、友達の苦難やシリアの実情について世界に伝えることは僕にもできると気が付いた。

僕は自撮りで動画撮影を開始した。兄がWi-Fiにつなぐ方法を考えてくれて、SNSを使って世界に動画を送り出すようになった。戦場記者としては世界最年少クラスだ。シリアの悲劇の真実を発信できたのは僕の誇りだ。

18年、僕は難民としてトルコに出国することができた。トルコに着いた時、僕は泣いた。危険は去ったけれど、生活は大変だった。言葉も人間も環境もシリアとは全然違う。

僕は今も、トルコの自宅から変化を起こそうと頑張っている。シリアには僕に動画を送ってくれる人たちがいるし、2カ月前には僕自身も兄とシリアに行き、現地で見たものを記録した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中