最新記事

生物

ヒトに脳炎起こす、20センチの巨大カタツムリ 10年越しに根絶 米

2021年10月21日(木)17時50分
青葉やまと

ここ10年ほど甚大な被害をもたらしてきたアフリカマイマイ Animal Wire-YouTube

<外来種「アフリカマイマイ」をフロリダから一掃。厄介なこの生物は、日本の一部にも分布している>

カタツムリといえば、雨の日のあじさいの葉にかわいらしく佇むイメージが浮かびやすい。ところが、アメリカ・フロリダ州では成人の手に乗り切らないほどの巨大カタツムリが大繁殖し、ここ10年ほど甚大な被害をもたらしてきた。

問題となっているのはアフリカマイマイと呼ばれる東アフリカ原産のカタツムリで、2011年から懸案となっていた。最大で体長20センチを超え、農作物を食い荒らすほか、脳炎と髄膜炎の原因となる。

東アフリカ原産の本種は、世界の侵略的外来種ワースト100、および日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。農業に甚大な被害を与えることから、米農務省は輸入および飼育を禁じている。米マイアミ・ヘラルド紙は、「世界で最も有害な種のひとつ」だとしている。

家屋への被害も報告されており、外壁の仕上げ材であるスタッコ(化粧しっくい)を食い荒らし、あとには異臭のするフンを線状に残す。

現地を悩ませたアフリカマイマイだが、日本円にして数十億円を投じた大規模な駆除プログラムが功を奏し、フロリダ州の農業・消費者サービス局は10月上旬、州内での根絶を宣言した。過去3年間に目撃例が出ていないことで、根絶要件を満たした。州内での発見から10年越しの悲願達成となる。

体液から微小な寄生虫が感染

農作物にも深刻なダメージを与えるアフリカマイマイだが、最も厄介なのは人体への影響だ。カタツムリやナメクジなどは一般に寄生虫の中間宿主となる場合があり、アフリカマイマイも例外ではない。アフリカマイマイがネズミのフンを食べることで、線虫の一種である広東住血線虫を取り込んでいる場合がある。

線虫は非常に小さく、人体への感染力をもつ「第3期幼虫」の段階で体長0.5ミリ程度だ。アフリカマイマイの体液を通じて人体に吸収されると、血液に運ばれて人間の脳や脊髄などに侵入する。脳と脳の保護層である髄膜に炎症を生じ、激しい頭痛や嘔吐感などを招くほか、まれに失明や死亡などに至ることがある。

アフリカマイマイは日本にも生息する。1930年代にシンガポールから台湾経由で持ち込まれ、沖縄諸島や鹿児島などに定着した。カタツムリを生食する機会はあまりないかもしれないが、這ったあとの葉に残る体液にも感染性の微小な寄生虫が含まれることがある。体液に触れた手で顔を触ったり、体液の残る葉をサラダなどの形で生食したりしないよう注意が求められる。

年間1200個を産卵 指数関数的に増加

フロリダにおいてアフリカマイマイは、そのしぶとい抵抗力で住民たちを苦しめてきた。雌雄同体のカタツムリは、2匹さえいればすぐに繁殖することができる。ことアフリカマイマイは産卵数が非常に多く、1年で最大1200個を土中に生みつける。米CBSマイアミは、自然界に捕食者がいないこととあわせ、「指数関数的に増殖する」と報じる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中