最新記事

認知症

アルツハイマー病の原因とみられる「アミロイドβ」の血液から脳への経路が明らかとなる

2021年9月28日(火)18時20分
松岡由希子

アルツハイマー病の予防やその進行を遅らせるための新たな治療の道をひらく成果 Lars Neumann-iStock

<アルツハイマー病患者の脳内に蓄積されるアミロイドβは、『リポタンパク質』から脳に漏出している可能性がある、との研究論文を発表された>

アルツハイマー病患者には、脳内で「アミロイドβ」が蓄積するという特徴がみられる。これまでの研究で、アミロイドβは脳だけでなく、血小板や血管、筋肉など、脳の外でも産生され、脳に侵入する可能性があることが示されていた。しかし、アミロイドβが体内のどこに由来し、なぜ脳で蓄積されるのかについては、まだ十分に解明されていない。

アミロイドβは、リポタンパク質から脳に漏出している

豪カーティン大学らの研究チームは、2021年9月14日、オープンアクセスジャーナル「プロスワン・バイオロジー」で「アルツハイマー病患者の脳内に蓄積されるアミロイドβは、血液中で脂質の運搬を担う複合体粒子『リポタンパク質』から脳に漏出している可能性がある」との研究論文を発表した。

研究チームは、豪バイオテクノロジー企業オズジーンと共同で、ヒトアミロイドβを肝臓のみで産生するようにマウスの遺伝子を改変し、このモデルマウスを観察した。

その結果、アミロイドβとリポタンパク質が結合した複合体「リポタンパク質-アミロイド」の血管外漏出、毛細血管障害に伴う神経変性、神経血管の炎症が認められ、肝臓で産生されたアミロイドβによって脳内の炎症が起こり、脳細胞の死滅や記憶障害の進行が早まることがわかった。透過電子顕微鏡で観察したところ、神経血管には顕著な損傷がみられたという。

循環器官用薬「プロボコール」がもたらす影響を検証

研究論文の責任著者でカーティン大学のジョン・マモ教授は「アミロイドβの『血液から脳への経路』は意義深い。『リポタンパク質-アミロイド』の血中濃度をコントロールすることで、脳への漏出を防止できる可能性がある」と指摘。

「リポタンパク質-アミロイド」を標的とした食事療法や薬剤など、アルツハイマー病の予防やその進行を遅らせるための新たな治療の道をひらく成果として期待を示している。

研究チームでは、循環器官用薬「プロボコール」が「リポタンパク質-アミロイド」の産生を抑制して認知能力をサポートするというマウスでの実験結果をふまえ、現在、アルツハイマー病患者の記憶力や思考力に「プロボコール」がもたらす影響を検証するヒト臨床試験をすすめている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月利下げ支持できず、インフレは高止まり=米ダラ

ビジネス

米経済指標「ハト派寄り」、利下げの根拠強まる=ミラ

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中