最新記事

ワクチン

静脈血栓リスク、ワクチン接種後よりもコロナ感染後の方が12倍高く 英研究

2021年9月22日(水)13時00分
青葉やまと

ワクチン接種への正しいリスク認識を、と専門家

今回の結果について研究チームは、ワクチン接種自体にも一定のリスクがあることを認めている。論文においても、「血液および血管にまつわる事象のうち、入院または死亡につながるリスクの上昇が、オックスフォード・アストラゼネカ製(ベクター型)新型コロナワクチンおよびファイザー・ビオンテック製mRNAワクチンの1回目の接種後、短期間について認められた」との記述を確認できる。

そのうえでチームは「新型コロナウイルスへの感染後には、これらの事象の大半のリスクが同じ人口集団において、ワクチン接種後よりも非常に高くかつ長期にわたる」とし、コロナ感染時の血栓リスクがワクチン接種を上回ると指摘している。

研究を主導したオックスフォード大学のジュリア・ヒッピスリー=コックス教授は、同大が発表したニュースリリースのなかで、同様の見解を明らかにしている。

教授は「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種後の、こうした(血栓などの)リスクについて、国民は理解しておく必要があります。また、仮に症状が発現した際には、適切な治療を受ける必要があります」と述べ、接種にあたっては適切なリスクの認識が必要だと論じる。そのうえで「しかし、それと同時に、もし新型コロナに感染してしまった場合には当該のリスクが相当に高く、影響期間も長いということも認識されるべきです」とし、感染時のリスクに対する注意を喚起している。

ワクチンと感染の血栓リスクを比較した、初の大規模な研究

本研究は、ワクチン接種後の血栓リスクを感染後と比較した、初の大規模な研究となる。研究に参加した英エディンバーグ大学のアジズ・シェイフ博士は英インディペンデント紙に対し、仮に感染してしまった場合のリスクと比較して安全上の知見を理解するための、重要な発見であると述べている。

一方で研究の限界として、1回目のワクチン接種のみを対象としているなど、全てのケースを網羅しているわけではない。研究チームは論文のなかで、「これらの分析はワクチン接種プログラムの展開中に実施されたため、(1回目のみを対象とすることが)必要であった」と説明している。

現実にはワクチンを接種しないことで必ずコロナに感染するわけではないことから、接種しない場合に血栓リスクが直ちに12.60倍となるわけではない。ただし、接種の際の懸念事項のひとつであった血栓リスクが感染時よりもむしろ大幅に低下するという研究結果は、リスクが心配でこれまで接種できなかった人々にとって、改めてバランスを検討する材料となりえそうだ。

本研究は論文としてまとめられ、イギリスの医学誌『BMJ(旧称:ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)』の2021年8月27日版に掲載された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中