最新記事

人体

カチカチに凍った女性が奇跡的に回復した 何が起きていたのか?

2021年8月12日(木)17時40分
松岡由希子

彼女は文字通りカチカチに凍っていた...... Nick_Thompson

<「カチカチに凍った」女性が奇跡的に一命を取り留め、多くの人々を驚かせた。彼女に身体に何が起きていたのか......>

およそ40年前の冬の夜、米国で「カチカチに凍った」女性が奇跡的に一命を取り留め、多くの人々を驚かせた。

当時19歳だったジーン・ヒリアードさんは、1980年12月20日の夜、ミネソタ州レンビーにある実家へ向かっていたが、運転中の自動車が道路から滑り落ち、氷点下22度という極寒の天候下で立ち往生した。

彼女はコートと手袋、ウェスタンブーツで身を包んで、2マイル(約3.2キロ)離れた友人のウォーリー・ネルソンさんの自宅まで徒歩で移動し、助けを乞おうとしたが、玄関から15フィート(約4.5メートル)のところで倒れ、そのまま意識を失った。

彼女は文字通りカチカチに凍っていた

6時間後の翌朝7時、ネルソンさんはヒリアードさんを発見した。当時の様子について「彼女は死んでいると思った。彼女は板よりも硬く凍っていたが、鼻からいくつか泡が出ているのが見えた」と回顧している。ネルソンさんはすぐにヒリアードさんをミネソタ州フォストン市の病院に連れていった。

病院に運び込まれたとき、ヒリアードさんの体温はわずか27度で、顔は青白く、目は光に反応せず、皮膚は皮下注射針を刺せないほど硬くなっていた。温湿布で2〜3時間、温める処置をしたところ反応を取り戻し、正午までには話せるまでに回復してすぐに退院した。病院でヒリアードさんの救命に当たったジョージ・サザー医師は、当時、米紙ニューヨーク・タイムズの取材に対して「彼女がなぜ生きているのか説明できない。彼女は文字通りカチカチに凍っていた。奇跡だ」とコメントしている。

それでも "生き返った" 理由は......

極めて稀ではあるものの、ヒリアードさんのように重度の低体温症から回復した症例はいくつかある。1985年から2013年までに北ノルウェー大学病院で治療を受けた低体温心停止患者34名を対象とする研究結果によると、1999年以前に生存者はいないが、1999年以降の患者24名のうち9名が生存した。

生存者のうち最も低い深部体温は13.7度で、心拍が再開するまでの最長時間は6時間52分であった。生存者は非生存者と比べて血液中のカリウム濃度が低かったという。

水は液体から凝固すると体積が増える性質を持つ。体内組織が冷やされると、体液の体積が膨張して組織を破壊するおそれがある。小さな氷の結晶ですら、細胞膜を破壊したり、傷つけて、いわゆる「凍傷」を引き起こすおそれがある。

ヒリアードさんの身体が "カチカチに固かった" のは、重度の低体温症により、筋肉の硬直が起き、死後硬直に似た状態となった可能性がある。

適応進化によって、こうした低温のリスクから身を守る生物もいる。韓国極地研究所が2019年2月に発表した研究結果によると、深海魚の一種「スイショウウオ」は、不凍液として糖タンパク質を産生し、南極の極限環境に適応している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中