地球上に残された「最後の秘境」で自然の静寂に耳を澄ます
Save Quiet, Save Everything
鳥の声が聞こえるのは、そこが豊かな生息地であることを意味すると、ヘンプトンは言う。「食べ物と水があり、ひなを育てるのに適した季節など、恵まれた条件がそろっているということだ」
そうした場所は鳥だけでなく、人間にとっても価値がある。「騒音公害とある程度無縁な場所は、健全な自然が残っている場所でもある。生態系が保たれ、多様な生物が生息する場所では、植物が大気中の炭素を吸収して人間を含め動物に酸素を供給する」
静寂は人の健康や幸福にも寄与するのか。答えはイエス。これまでの研究で、静かな環境は認知能力と創造性を高め、ストレスレベルを下げ、長生きできる確率を上げることが分かっている。喧騒が増す一方の今の世界では、静寂はたちまち人を幸福にするのだ。
「沈黙が金なら、静寂は金脈だ」とは、ヘンプトン式の格言。騒音まみれの都市を離れ、緑豊かな環境で静寂に耳を澄ませば疲れた心が癒やされる。有害なノイズをデトックスできるエコツーリズムは急成長中だと、彼は解説する。
静けさのおもてなし
静寂という価値ある資源を活用すれば、生態系が脅かされている地域に富がもたらされ、そのカネで野生生物を保護し、自然環境を保全できる。
「地球温暖化や有毒廃棄物や野生生物の生息地の喪失、生物種の絶滅といった問題があるのに、静寂を守ろうなんて本気なのかとよく聞かれる」と、ヘンプトンは打ち明ける。
「もちろん本気だ。静かな環境では私たちはよりよい自分になれるばかりか、より明晰に考え、より知的かつ創造的になれ、互いに助け合う社会意識が芽生える」
言い換えれば「静寂を守れば、全てを守れる」のだ。世界初の「静寂な公園」は、エクアドルの先住民コファンの居住地でもある。今や人口わずか1200人。コファンの人々は自分たちの土地を守るために持続可能な資源である「静寂」を世界中から訪れる旅行者に提供している。
「彼らは違法な金の採掘から自分たちの土地を守る資金を確保するため、エコツーリズムを軌道に乗せようとしている」と、ヘンプトンは説明する。「自分たちの資源を奪おうとする外界の圧力に必死で抵抗して、伝統的な生活様式を守ろうとしているのだ」
コファンが守り続ける静かな森は生き物たちのひそやかな営みに満ちている。ヘンプトンはコファンのガイドと共に、サバロ川の支流沿いに森を探検する少人数のツアーを主催している。
「自然環境を守る唯一の方法は、人々に自然環境に関心を持ってもらい、自然との触れ合いを生活の一部にしてもらうこと」と、彼は言う。「そのための唯一の方法はそこに案内して、その素晴らしさを体験してもらうことだ」