少数派「いじめ」の強化で、権力にしがみつくハンガリーの「独裁者」
A Dangerous Farce
腐敗疑惑、世界最悪クラスの新型コロナウイルスの死亡率、EUを軽視し中国とロシアに接近する外交への有権者の懸念──。それらが積み重なってオルバン政権は今や崖っぷちに追いやられている。彼らが土壇場で見せる悪あがきこそ、今のハンガリーが抱える最も危険な要因だ。
オルバンは2000年前後の数年間首相を務め、10年に首相の座に返り咲いた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がいい例だが、どんな指導者も10年以上たてば新鮮味は薄れる。
22年の総選挙でオルバンの対抗馬として浮上しているのが、首都ブダペストの市長で46歳のカラチョニ・ゲルゲイだ。そうなればオルバンは10年に権力を掌握して以来初めて、手ごわい挑戦を受けることになりそうだ。カラチョニはオルバンとは驚くほど対照的だ。若く、楽天的で、EU加盟国としてハンガリーに活気ある未来が約束されるよう情熱を注いでいる。気候変動、教育、スキルアップや不平等といった自分と同世代の問題に精通してもいる。
欧米による制裁の動きも
総選挙を前に、オルバンは不屈のオーラを永遠のものにしようとし、カラチョニは与党フィデス・ハンガリー市民連盟が選挙で負けないというのは迷信だと暴こうとするだろう。オルバンが勝てば、ハンガリーは中欧にあって政治的にはますます中央アジアの国に似てくる可能性が高い。一方、カラチョニが勝てば22年はハンガリーの転機──民主主義再生のチャンスになる。
選挙での勝敗を決するのはハンガリー国民だが、バイデン米政権はNATOの同盟国であるハンガリーに影響を及ぼすことができる。EUが対ハンガリー制裁を決定すれば全面的に支持するのも1つの手だ。ハンガリーは少数民族の権利に関するEU基本理念に違反するばかりか、過去10年、民主的な統治に背を向けると同時にEUの意思決定を妨害しがちにもなっている。
アメリカで政府を非難する多くのレッドステート(共和党が優勢の州)の政治家と同様、オルバンもEU本部を激しい言葉で非難している。だが多くのレッドステートが連邦政府予算を受け取っているように、ハンガリーはEU予算の純受益国でもある。オルバンはEUの資金を必要としている──自国の農家助成のためだけでなく、自身が牛耳る汚職まみれの公共事業の費用を賄うためにもだ。
バイデン政権は6月3日、国際的な汚職に国家安全保障上の問題として取り組む新たな枠組みを打ち出した。7月1日には中米の「北部三角地帯」(ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル)の政府高官らを汚職絡みで制裁対象にした。これらの国の汚職が地域の安全保障を損ない、米南部国境に押し寄せる人々をはじめ、移民や亡命希望者の流出を悪化させていると認識してのことだ。
バイデン政権は既存の制裁法と新たな汚職対策の枠組みを利用して、オルバンと取り巻きに制裁を加えることもできる。ハンガリーの民主主義後退は国民に痛手となるばかりか、EUの影響力を低下させ、NATOの基本理念を損なう。
何より、米欧の指導者は今後オルバンがさらに卑怯な行為に走る可能性にも備えておく必要がある。何が起きても不思議はない。いじめっ子は性的少数派を標的にする。この上なく残酷で、それ以上に弱い。それでも危険であることには変わりない。追い詰められたいじめっ子ほど危険なものはないのだ。
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