最新記事

ハンガリー

少数派「いじめ」の強化で、権力にしがみつくハンガリーの「独裁者」

A Dangerous Farce

2021年7月22日(木)14時02分
ダニエル・ベアー(カーネギー国際平和財団上級研究員)

腐敗疑惑、世界最悪クラスの新型コロナウイルスの死亡率、EUを軽視し中国とロシアに接近する外交への有権者の懸念──。それらが積み重なってオルバン政権は今や崖っぷちに追いやられている。彼らが土壇場で見せる悪あがきこそ、今のハンガリーが抱える最も危険な要因だ。

オルバンは2000年前後の数年間首相を務め、10年に首相の座に返り咲いた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がいい例だが、どんな指導者も10年以上たてば新鮮味は薄れる。

22年の総選挙でオルバンの対抗馬として浮上しているのが、首都ブダペストの市長で46歳のカラチョニ・ゲルゲイだ。そうなればオルバンは10年に権力を掌握して以来初めて、手ごわい挑戦を受けることになりそうだ。カラチョニはオルバンとは驚くほど対照的だ。若く、楽天的で、EU加盟国としてハンガリーに活気ある未来が約束されるよう情熱を注いでいる。気候変動、教育、スキルアップや不平等といった自分と同世代の問題に精通してもいる。

欧米による制裁の動きも

総選挙を前に、オルバンは不屈のオーラを永遠のものにしようとし、カラチョニは与党フィデス・ハンガリー市民連盟が選挙で負けないというのは迷信だと暴こうとするだろう。オルバンが勝てば、ハンガリーは中欧にあって政治的にはますます中央アジアの国に似てくる可能性が高い。一方、カラチョニが勝てば22年はハンガリーの転機──民主主義再生のチャンスになる。

選挙での勝敗を決するのはハンガリー国民だが、バイデン米政権はNATOの同盟国であるハンガリーに影響を及ぼすことができる。EUが対ハンガリー制裁を決定すれば全面的に支持するのも1つの手だ。ハンガリーは少数民族の権利に関するEU基本理念に違反するばかりか、過去10年、民主的な統治に背を向けると同時にEUの意思決定を妨害しがちにもなっている。

アメリカで政府を非難する多くのレッドステート(共和党が優勢の州)の政治家と同様、オルバンもEU本部を激しい言葉で非難している。だが多くのレッドステートが連邦政府予算を受け取っているように、ハンガリーはEU予算の純受益国でもある。オルバンはEUの資金を必要としている──自国の農家助成のためだけでなく、自身が牛耳る汚職まみれの公共事業の費用を賄うためにもだ。

バイデン政権は6月3日、国際的な汚職に国家安全保障上の問題として取り組む新たな枠組みを打ち出した。7月1日には中米の「北部三角地帯」(ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル)の政府高官らを汚職絡みで制裁対象にした。これらの国の汚職が地域の安全保障を損ない、米南部国境に押し寄せる人々をはじめ、移民や亡命希望者の流出を悪化させていると認識してのことだ。

バイデン政権は既存の制裁法と新たな汚職対策の枠組みを利用して、オルバンと取り巻きに制裁を加えることもできる。ハンガリーの民主主義後退は国民に痛手となるばかりか、EUの影響力を低下させ、NATOの基本理念を損なう。

何より、米欧の指導者は今後オルバンがさらに卑怯な行為に走る可能性にも備えておく必要がある。何が起きても不思議はない。いじめっ子は性的少数派を標的にする。この上なく残酷で、それ以上に弱い。それでも危険であることには変わりない。追い詰められたいじめっ子ほど危険なものはないのだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

加藤財務相、「為替水準の目標」話題にならず 米財務

ワールド

米との鉱物資源協定、週内署名は「絶対ない」=ウクラ

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中