最新記事

災害

あなたは豪雨災害がなぜ起こるかを分かっていない 命を守るため「流域」を確認せよ

2021年7月13日(火)18時40分
岸 由二(慶應義塾大学名誉教授) *東洋経済オンラインからの転載

まずは、地図が問題です。豪雨を引き起こす水土砂災害は、大小のスケールにかかわらず、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象です。「流域」とは、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形のことです。「流域」の構造を知ることで、水土砂災害に備える考え方や行動ができるのですが、実際には、私たちが利用する通常の地図にはほとんど反映されていないのです。

河川と流域の構造(出所:『生きのびるための流域思考<筑摩書房>)
流域の構造。A川流域とB川流域は隣りあっている。さらに流域はそれぞれがジグソーパズルのように入れ子状になっている(イラスト:たむらかずみ、出所:『生きのびるための流域思考<筑摩書房>)
 

氾濫を起こすのは川ではなく「流域」

2021年の今日まで、私たちは、学校でも、市民社会でも流域については学ぶことなく過ごして来ました。

それは、行政も市民も同じです。水土砂災害は都道府県・市町村の行政単位で発生すると考えている行政職員や市民は少なくありません。防災・被災の情報が、いつも行政地図を元に報道されてきたことに、わたしたちは慣れきってしまっていたのかもしれません。

それだけではなく、気象庁も国土交通省も、「水土砂災害は河川が引き起こす」と、ついつい、強調してきました。氾濫を引き起こす構造として、確かに河川は水土砂災害の直接的な原因のように見えます。

しかし、その河川に大量の雨水を集める大地の広がりは「流域」であり、雨水や降水による氾濫やさらにそれらを水土砂災害を引き起こす川の流れに変換するのは、「流域」という地形であり生態系です。つまり、氾濫を起こすのは、川ではなく「流域」なのです。これが、水土砂災害を考えるうえで、わたしたちがいま確認すべき、最も重要なポイントです。

2021年の現在に至るまで、日本の義務教育は、どの学年でも流域という地形について学ぶことはありませんでした。わたしたちが流域についての明快なイメージを持っていないおそらく最大の理由はここにあるように思います。雨や川については学ぶのですが流域の地形・生態系は義務教育のテーマになっていないのです。これでは、行政も、国民も、報道も、水土砂災害の基本を理解できるはずがありません。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=

ワールド

EU、27年までのロシア産ガス輸入全面停止へ前進 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中