最新記事

教育

世界で最低レベルの、日本の教員の院卒比率

2021年7月7日(水)14時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

data210707-chart02.jpg

日本は教員、校長とも数値が低いので、左下の原点付近にある。対極の右上には、最初のグラフで見たドイツやフィンランドの他、スロバキア等が位置している。教員のほぼ全員が大学院卒の国だ。

日本は高学歴化が進んだ社会だが、2つのグラフをみると疑問符が付く。教員の大学院卒率は世界で最低水準。大学院卒と職務遂行能力の関連のエビデンスはないが、高度な知の証である修士号・博士号保有の教員がもっと増えていい、いや増えるべきだという考えが出るのは道理だ。知の伝達者としての誇りの源泉にもなる。

冒頭の中教審答申では、教員の全員を大学院卒にしようと提言されたが、フィンランドの制度を意識してか、教員養成の期間を4年から6年に延ばす構想が示されている。学部4年プラス修士2年だ。

教員に「ゆとり」を

ただ、学びの機会を入職前に集中させるのはいかがなものか。上述のように、在学期間の長期化に伴う学費負担、長期実習の受け入れ負担の問題もある。大学院に行くのは、現場に出て問題意識を培ってからのほうがいい。

既存の大学院修学休業を拡充する、夏季休暇等を使って少しずつ学べるようにするなど、策はいろいろ考えられる。アメリカでは、こうした斬新的な学びができるようになっていると言う。これぞ「学び続ける教員」の姿だ。管理職になる頃には、大半の教員が修士ないしは博士の学位を保持していることになる<図1>。

日本の教員は就職後、膨大な業務に忙殺され、学び続けることができないでいる。最近は文科省も本気になってきて、2019年の中教審答申では、これまで教員が担ってきた業務の仕分けが示された。学び続けるための条件は「ゆとり」だ。教員を「何でも屋」から、教えることに秀でた高度専門職へと脱皮させなければならない。その具現度は、大学院卒の教員の率で測れる。

教員免許更新制が見直されることになり、教員研修の在り方を変える機は熟している。「職務直結・上からの押し付け」型ばかりでなく、教員の自律的な学びの比重を高める時に来ている。

<資料:IEA「TIMSS 2019」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中