最新記事

オーストラリア

豪に残るネズミ被害の爪痕 農家は涙で穀物を廃棄、壁の中からは死骸の悪臭

2021年7月6日(火)18時00分
青葉やまと

特効薬は承認得られず、19世紀の伝統手法で捕獲

増殖を抑える決定打はなく、政府も市民も頭を抱えている。ワルファリンに抵抗力を持つネズミが現れていることから、別の抗凝固成分であるブロマジオロンの導入が期待されていた。しかし、鳥や魚などの野生生物への影響が大きいことから、危険性も指摘されている。ニューサウスウェールズ州政府は農地における緊急使用を申請していたが、豪農業・動物用医薬品局は先日、これを却下した。豪公共ニュース配信サービスのABCニュースは、フクロウなど猛きん類や魚など多くの野生生物がネズミを捕食しており、二時的な死亡被害が大きすぎるとの見解を報じている。

対策が限られるなか、意外に大きな効果を発揮しているのが、19世紀から使われてきた歴史ある捕獲法だ。この手法では、水を張ったバケツの上に、ピーナッツバターを塗ったワインボトルを固定する。また、ボトルから地面にかけて古くなったジーンズなどを垂らしておく。するとネズミが地面からジーンズを伝ってボトルに上り、ピーナッツバターを目指してワインボトルの上を歩くが、途中で足を滑らせてバケツの水へと落ちる、というトラップだ。news.com.auによると、ある農家はこの古い手法で毎晩数十匹の捕獲に成功しているという。

一概に罠の成果というわけではないが、気候の変化も後押しし、ネズミ被害はすでに最悪の時期を脱したようだ。南半球のオーストラリアでは気温が下がりつつあり、これに伴ってネズミの繁殖も落ち着きを見せている。住民たちは完全に被害が去ったかどうかまだ確証を得られないようだが、家や穀物畑で見かけるネズミの数は目に見えて減ってきているという。

ただし、オーストラリアはここ100年ほど、数年おきにネズミの大発生を繰り返している。サイエンティフィック・アメリカン誌は、5年や10年など特定のサイクルは存在せず、豪雨があった年に大量発生が起きやすいと説明する。残念ながらまた数年後、同様の光景が広がる公算は高そうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中