最新記事

野鳥の異常行動・怪死相次ぐ 目が腫れ上がり、人を恐れず...米

2021年7月1日(木)18時50分
青葉やまと

疑われる未知の感染症のほか、セミ由来説も

現在のところ原因の目星はまったくついておらず、専門家たちも首を捻る。鳥類の感染症とあって鳥インフルエンザが懸念されるところだが、これによるものではないようだ。インディアナ州の野生生物局では、州内5つの郡で発生した不審な死亡例について、鳥インフルエンザ、および鳥が媒介してヒトへのウイルス感染を広めるウエストナイル熱について死骸を検査した。同局スポークスマンは、結果はいずれも陰性であったと発表している。

現段階で濃厚なのは未知の感染症の可能性だが、これに加え専門家たちは、セミの大発生による二次被害である可能性も視野に入れているようだ。今年アメリカは、17年に1度大量発生する周期ゼミ「ブルードX」の当たり年になっている。4月からすでに羽化が始まっており、その数は6月までに全米で数十億匹から数兆匹に達すると予測されている。

おびただしい数のセミに悩む人々は、駆除のため殺虫スプレーの散布を始めた。そこに含まれる有毒成分がセミの死骸に残留し、餌としてついばんだ野鳥が神経を冒された可能性があると考えられている。異常な死亡例は4月から報告されており、時期的にもセミの羽化が進んだ期間と一致する。また、セミの大発生はワシントンD.C.やオハイオ州など米北東部を中心に起きており、地域的にも符合することになる。

ほかの見方としては、過去の鳥の大量死と関連づける説が出ている。アメリカでは昨年8月ごろ、南西部ニューメキシコの国立公園などで、渡り鳥を中心に数十万羽の死亡が確認されていた。地方紙『ラスクルーセス・サン・ニュース』によると当時住民たちは、感染した鳥たちが死の直前に大集団を形成するなど、異常な振る舞いを目撃している。当時は低気温や大規模な森林火災などの影響が疑われたが、今回の事例を受け、2つのケースに何らかの関係があるのではないかとの見方が浮上している。

感染警戒も、決定的な対策はなく

これまでに原因が特定できておらず、感染症の疑いもあることから、住民は不安を抱えながら日常生活を送っている。症例は鳥類だけに確認されており、ヒトなどほかの動物に伝染したとの報告はまだない。しかし、バージニア州野生生物資源局の獣医であるキルゲスナー博士はワシントン・ポスト紙を通じ、病気の鳥の死骸を処分したりする際には使い捨て手袋を着用い、衛生面に配慮するよう市民に呼びかけている。症例の出ている鳥に無闇に近づかないことや、ペットが近づかないよう留意するなどの予防措置も挙げており、同局は人間とペットへの感染の可能性も排除していない。

事態を受けて米地質研究所は、庭先などに設置しているバードフィーダー(給餌器)を取り下げるよう市民に要請した。仮にウイルスや細菌などによるものであれば、餌台の餌と水が病原菌を媒介し、拡散を早める危険性がある。

また、殺虫剤由来説も依然として濃厚であることから、過度なセミ駆除の取り止めも求められている。バージニア州野生生物資源局は米ABC7ニュースの取材に対し、セミへの駆除スプレーの噴霧を止めることが重要だと説明している。セミを介した殺虫剤の被害は実際に起こり得るのだという。過去には犬や猫、そして鳥やコウモリなどが殺虫成分の染み込んだセミを食べてしまい、これが原因で体調を崩す事故が発生している。

このように各種の対応が提言されているものの、原因が判然としないだけに決定的な対策は打ちづらい状況だ。身近な野生生物の大量死が米東部住民の不安を掻き立てている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中