最新記事

ウイルス

チベットの溶ける氷河から、約1万5000年前の未知のウイルスが発見される

2021年7月26日(月)19時53分
松岡由希子

チベット高原の氷河から1万4400年前の未知のウイルスが見つかった REUTERS/Stringer

<中国のチベット高原の氷河から1万4400年前のウイルスが見つかった。その大半は、これまでに分類されていない未知のウイルスであった>

中国のチベット高原で採取された氷床コアから1万4400年前のウイルスが見つかった。その大半は、これまでに分類されていない未知のウイルスであったという。

標高6710メートルの氷河から、28種は新種のウイルスを発見

米オハイオ州立大学の研究チームは、中国チベット高原にある標高6710メートルのグリア氷帽(山頂部を覆う氷河)で2015年に採取された長さ50.8メートルの氷床コアを分析し、1万4400年前のウイルス33種の遺伝暗号を発見した。一連の研究成果は2021年7月20日、学術雑誌「マイクロバイオーム」で発表されている。

これら33種のウイルスのうち4種は既知のものだ。尾部を持つバクテリオファージとして知られるカウドウイルス目のサイフォウイルス科に属するものが3種、残りの1種はマイオウイルス科に属するウイルスであった。

一方、少なくとも28種は新種であり、いずれの分類群にも当てはまらなかった。これら新種のウイルスの約半数は、凍結された時点で生き残ったと考えられている。

「極限環境で生息するウイルスについてほとんど明らかになっていない」

研究論文の共同著者でオハイオ州立大学のマシュー・サリバン教授は「これらは極限環境で繁殖するウイルスであろう。寒冷環境下で細胞に感染しやすい遺伝子の特徴を有していた」と考察している。また、研究チームの分析によると、これらのウイルスは動物やヒトではなく、土壌もしくは植物に由来するとみられる。

グリア氷帽は徐々に形成され、ほこりやガスとともに、多くのウイルスも氷の中に堆積している。氷床コアには年々、氷の層が積み重なっており、凍結した時点で周囲の大気中に存在したあらゆるものが各層に閉じ込められている。つまり、氷床コアを分析することで、気候変動や微生物、ウイルス、ガスの変遷の解明に役立つ。
古代のウイルスの復活は、パンデミックへの恐れを喚起させるが、最大の懸念は溶けた氷が放出しているメタンガスや二酸化炭素だという。

氷河でのウイルスの研究はまだ比較的新しい分野だが、気候変動に伴ってその意義は高まっている。研究論文の責任著者でオハイオ州立大学のロニー・トンプソン特別教授は「極限環境で生息するウイルスや微生物についてほとんど明らかになっていないが、微生物やウイルスが気候変動にどのように反応するのか、氷河期から現代のような温暖期へと移行すると何が起きるのか、解明することは極めて重要だ」と説いている。


Ancient, 15,000-Year-Old Viruses Identified Frozen in Melting Glaciers

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも30人死

ワールド

米がウクライナ和平仲介断念も 国務長官指摘 数日で

ワールド

米側の要請あれば、加藤財務相が為替協議するだろう=

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中