最新記事

中国

自国産ワクチン「効果高くない」 中国・保健当局トップはなぜそんなことを言った?

RARE OPENNESS

2021年6月9日(水)11時31分
ダニエル・ポリティ
中国疾病対策予防センターの高福主任

高福は発言の火消しに必死だが JASON LEEーREUTERS

<中国政府はシノファームのワクチンを積極的に国外に送り出しているが、この発言からは隠し切れない問題が見えてくる>

中国は新型コロナウイルスの国産ワクチンを諸外国にばらまく「ワクチン外交」を展開しているが、中国製ワクチンの有効性に疑問を呈する声は少なくない。そしてどうやら、中国政府も国産ワクチンの問題に気付いているらしい。

4月10日の国内の会議で、中国疾病対策予防センターを率いる高福主任が、「現行ワクチンの防御率は高くない」と認める発言をしたのだ。

中国の政府関係者が公の場で自国の産品の品質に問題があるのを認めるのは異例だ。このとき高は、有効率の低さに対処するため、異なるワクチンを併用して接種することを公式に検討しており、接種間隔や接種回数の調整なども選択肢の1つだと述べた。

中国政府はこれまで、mRNAを用いた最先端のアメリカ製ワクチン(ファイザーとモデルナの製品)の信頼性に疑問を投げ掛け、自国のワクチンを誇ってきた。だがアメリカ製ワクチンの有効率の高さが各地で示されると、今度は自らmRNAワクチンの開発に乗り出している。高の発言は、こうした風向きの変化を反映しているといえそうだ。

件の発言は瞬く間にSNS上に広がったが、中国国内ではすぐに検閲の対象になった。「有効率が問題だと中国政府関係者が認めたのは初めてだった」と米シンクタンク外交問題評議会の医療問題担当シニアフェロー、黄厳忠は言う。そもそも、どの中国製ワクチンも治験の最終的な結果は公表されていない。

チリでの中国のシノバック製コロナワクチンの有効率を調査した研究によると、1回接種を受けた被験者の有効率は3%、2回接種でも約56%だった。なお中国のシノファームは、自社製ワクチンの2回接種後の有効率は79%だとしている。

世界中に発言が広まった後、高は共産党系の新聞「環球時報」で、自分の発言をめぐる報道は「完全な誤解だ」と語るなど、火消しに追われた。「ワクチンの有効性は高いときもあれば低いときもある。どうやって有効性を高めるべきかを世界中で考えるべきだ」。高はこうも述べたが、後の祭り。最初の爆弾発言を打ち消すほどの力はない。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中