ビットコイン相場で話題の「マイニング(採掘)」って何?

2021年6月3日(木)17時10分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

Aの電子財布を作成するのと、Aが銀行に口座開設するのとは似ているような感じもするが、実際には異なる。具体的に、預金データとビットコインを比較してみると、次のような違いがある3(図表1)。

-----
3 以下で説明するようにデータとして銀行口座データとビットコインデータには違いがあるが、例えば決済業者にビットコインの保管を委託し、利用するという立場から見ると、預金口座や証券口座を保有するようにビットコイン口座が保有できるため、利用上の感覚は類似する。


まず、預金は様々な人・企業の口座(残高や口座間の異動)データであり、銀行が管理している(図表1の最上段)。Aさんは自分の口座の残高情報や数年前までの取引履歴を知りたいときには、銀行に依頼して、銀行が保有しているデータの一部をAさんに開示するという手続きを踏んでいる。

送金や現金の引き出しは、銀行に対して(ATMカードなどで)Aさん本人であることを示した上でなされ、また、その取引・残高データは銀行が記録する。

nissai20210603132201.jpg

一方、ビットコインは、「取引」が連なったデータであり、ネットワーク参加者全員に共有されている(フルノード参加者全員が保有している)。なお「取引」データは、コインがどこからどこに行ったのかを記した、原資(資金源)と送金先・金額が記載されており、「残高」という視点でデータは蓄積されていない。

例えば、図表1中央下段の「【取引3】A→Cに100異動」の「取引」では、送金するための原資(【取引2】〔(3)〕の取引)と送金先((3)からCに100〔(4)〕)というデータが記される。そしてAの残り540(手数料除き)も「取引」の一部として((3)からAに540〔(5)〕)として記される。この後、Aがこの540を原資としてBに送金する場合は、(5)の原資からBに△△という取引が続くことになる(原資と送金先はそれぞれ複数で1つの「取引」となることもある(図表1の一番右の例))。Aが保有するビットコイン(使えるビットコイン)の残高を知りたいと思ったら、これまでの「取引」をすべて集めた上で、まだ送金されておらず原資として使える金額を合計する必要がある。

「取引」データの追加は、ある参加者が正しい(データ上不備のない)「取引」を作成すると、他の参加者にその「取引」データが伝送される形で、全参加者に共有されていく。参加者なら誰でも自ら「取引」を作成することができ、それが全参加者に共有される仕組みである(ただし、原資を保有する人しか、その原資をどこかに送金する「取引」を作成することはできないようになっている。これは前述の最初の疑問に関連する仕組みである)。

この「取引」がいくつかまとまって「ブロック」と呼ばれるデータの集合となる。そして、この「ブロック」の全体がビットコインのブロックチェーンと呼ばれている(チェーンと呼ばれる理由は後述)。「取引」の共有と同じく、基本的にはこのブロックチェーン(ブロックの集合体全部)を取引参加者全員が保有している4。この、ビットコインのような参加者(ノード)がすべてのデータを共有、管理している仕組みは「分散型」のシステムと呼ばれる5。

-----
4 前述の通り、ここまで参加者によるデータの共有については、いわゆるフルノードの参加者を念頭に説明している。ネットワーク参加者でも、すべてのブロックをダウンロードしない軽量型のノードが存在する(計量型のノードは他のフルノードが持つブロックチェーンの情報を参照することで軽量化を実現している)。

5 分散型システムで保有されるこのデータのことを「(分散)台帳」と呼ぶことも多い。なお、共有されているデータは完成されたブロックチェーンだけでなく、「ブロック」になる前の「取引」なども含まれる(承認前の取引の意味であり、詳細は後述する)。また、「分散型」は銀行によるデータの独占のような「中央集権型」「集中型」の対義語となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、半導体密輸対策に役立つ位置確認技術構

ビジネス

26年の最大のテールリスクはAI巡るサプライズ、ヘ

ワールド

インドネシアとの貿易協定、崩壊の危機と米高官 「約

ビジネス

米エクソン、30年までに250億ドル増益目標 50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中