死海沿岸を呑み込む7000個の陥没穴 縮む塩湖で地下構造が崩壊
ところが、死海の縮小に伴って濃い塩分を含んだ地下水が退いていき、陸地側から真水の地下水が流れ込むようになった。地下にあった大量の塩の層は融解し、塩水となって徐々に死海側へ流出する。これにより空洞が発生し、支えを失った表土が次々と地中に崩れ落ちているというわけだ。
湖面の高さと陥没穴の関係について、イスラエルのハアレツ紙が詳しく報じている。1972年の時点で湖面は海抜マイナス397メートルの位置にあり、この時点で陥没穴は存在しなかったという。
しかし、そこから水位が低下し、それとともに陥没穴の報告が急増するようになる。2016年までに水面は32メートル分、つまり10階建てのビルほど低下し、陥没穴は5548個を数えるようになった。現在では7000個に達しており、エルサレム・ポスト紙によると地質学者は、今後数年でさらに倍増して1万4000個に達すると予測しているという。
シンクホールを観光資源にする大胆な計画も
このまま穴が増加すれば生活と観光への影響は甚大となるため、住民たちは根本的な解決を求めている。水面の低下は、死海に注ぐヨルダン川からの流入減少が一因だ。かつてヨルダン川は潤沢な水を供給していたが、イスラエルとヨルダンが取水目的で水源として利用するようになり、死海への流入量は激減した。
また、ミネラルを多く含む死海の湖水は、工業用途での価値も高い。死海南側では接岸するイスラエルとヨルダンがそれぞれ工場を展開し、取水合戦を繰り広げている。豪公共放送のABCによると、肥料用の水酸化カリウムの抽出用途などでの汲み上げが盛んで、取水量は年間合計で5億立方メートルに及ぶ。半量は死海へ還元されるが、それでもシドニー湾の半分の水量が毎年失われている計算だ。これによって死海は現在、年間1.2メートルのペースで水位を下げている。
イスラエルとヨルダンも無策ではなく、両政府は紅海から運河を通して死海に給水するプロジェクトを共同で推進している。しかし、予算や政治などの問題が立ちはだかっており、決して順風満帆というわけではないようだ。米コンデナスト・トラベラー誌によると専門家は、このままのペースでは2050年ごろまでに死海が完全に消滅すると予測しているという。
生活と観光産業に打撃を与える陥没穴だが、一部の専門家は楽観的だ。ハアレツ紙は、イスラエル政府の地質調査機関に所属するベール博士とガブリエル博士が筆頭となり、「シンクホール・パーク」なる新たな国立公園を計画していると報じている。木製の通路を張り巡らせ、湖岸に開いた複数の陥没穴を見学できるようにするのだという。これまで恐れてきた災害を観光資源にしようという逆転の発想だ。
博士たちによると、複数の杭で通路を支え、突如新たな穴が口を開けた場合にも崩落しないように設計するのだという。今後発生する穴の状況によっては散策路のルートを変更するなど、状況に合わせて柔軟に対応する構えだ。しかし、予測不能で発生する穴に対して確実に対応できるのかといった安全面での疑問は残る。さらに、国立公園が成功したとしても、生活を脅かす陥没穴問題が解消するわけではないだろう。
数十年続きながら徐々に町を滅ぼしている死海のシンクホールは、かなり根の深い問題と言えそうだ。