最新記事

生物

水深6000メートル超の超深海帯で死肉をたいらげる新種のエビの近縁種が見つかる

2021年6月8日(火)19時00分
松岡由希子

沈んでくる死肉を採食する腐食肉動物 Alan Jamieson

<ペルーとチリの沖合に位置するアタカマ海溝(ペルー・チリ海溝)の超深海帯で新種の端脚類(甲殻類の目の一つ。ヨコエビ類とも呼ばれる)が見つかった>

東太平洋のペルーとチリの沖合に位置するアタカマ海溝(ペルー・チリ海溝)の超深海帯で新種の端脚類(甲殻類の目の一つ。ヨコエビ類とも呼ばれる)が見つかった。その研究成果は、2021年5月14日に学術雑誌「マリン・バイオダイバーシティ」で発表されている。

上から沈んでくる死肉を採食する腐食肉動物

「エウリセネス・アタカメンシス」と名付けられたこの新種は、甲殻類に属するエビの近縁種で、アタカマ海溝の固有種だ。長さ8センチ超と大きい。水深4974メートルから「リチャーズディープ」と呼ばれる最深部8081メートルまでの範囲で生息し、上から沈んでくる死肉を採食する腐食肉動物として食物網で重要な役割を担っている。

アタカマ海溝は、あるプレートが別のプレートの下に押し込まれ、海底が急激に落ち込む「沈み込み」と呼ばれる地質学的プロセスで形成されたもので、その体積はアンデス山脈に匹敵する。水深6000メートル超の超深海帯は真っ暗で水温1〜4度の極限環境だ。静水圧は600〜1000atm(標準大気圧)で、人の指先に重さ1トンを乗せる圧力に相当する。「エウリセネス・アタカメンシス」のほか、マリアナスネイルフィッシュなどの深海魚や等脚類は、このような極限環境に順応して生息している。

matuoka20210608aa.jpeg

「オオオキソコエビ」だとみられていた

「エウリセネス・アタカメンシス」は、水深4602〜8074メートルのアタカマ海溝で実施された2009年の調査ですでに見つかっていたが、当時は「オオオキソコエビ」だとみられていた。

その後の2018年、チリの海洋調査船「カボ・デ・オルノス」が「リチャーズディープ」を調査したのに続き、ドイツの海洋調査船「ゾンネ」が水深2500メートルから最深部8081メートルの「リチャーズディープ」までをサンプリングし、アタカマ海溝の生態系を広範囲にわたって調査。これらの調査を通じて、数百時間もの映像が撮影され、「エウリセネス・アタカメンシス」を含む、数千匹もの端脚類が採集された。

超深海帯の生態系の研究は容易ではない

英ニューカッスル大学の博士課程に在籍するジョアンナ・ウェストン研究員らの研究チームは、2018年に採集した標本をもとに、従来の形態学とDNAバーコーディングを組み合わせた統合的分類学的アプローチを用いて分析し、「エウリセネス・アタカメンシス」が新種であることを突き止めた。

超深海帯の生態系の研究は容易ではなく、浅海域に比べてまだ十分に解明されていない。超深海帯の継続的な調査によって、その生態系での種分化の進化についても解明がすすむと期待されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中