最新記事

インド

コロナで親を失った子供たち 苦しむ家族を看取り、孤立し、人身売買の被害者に(インド)

INDIA’S NEW COVID ORPHANS

2021年5月27日(木)12時00分
ウマル・ソフィ(デリー在住ジャーナリスト)

目の前で親が死ぬのを見た子供もいると、ボランティアとして児童権利保護委員会で活動している人物は指摘する。病床が不足していて入院できず、人工呼吸器も利用できないまま、苦しんで死んでいく親の姿を目の当たりにした子供たちが少なからずいるのだ。

そのような経験をした子供たちは情緒面で非常にもろい状態にあり、カウンセリングを行う場合は細心の注意を払う必要があると、このボランティアの人物は言う。子供との会話で過去の過酷な経験を話題にすると、つらい記憶がよみがえってしまうからだ。

コロナ禍で親を亡くした子供たちは、ほかの理由で親と死別する場合とは異なる独特の試練に直面する場合がある──そう指摘するのは、インドの児童心理学者ブハブナ・バルミだ。コロナ禍に特有の社会的孤立や経済的苦境により、誰も自分を助けてくれないという思いを強くしかねないというのだ。

「私たちがまずできるのは、先手を打って全ての子供を既存の支援制度に結び付けること」だと、バルミは語る。「生活保護や遺児年金など、子供たちが受給できる制度の利用を後押しすべきだ。加えて政府は、親を亡くした子供全員を洗い出し、カウンセリングを行い、有益な資源を提供する必要がある。その重要性は極めて大きい。親を亡くした子供たちは、深刻な精神的ダメージを被っているのだから」

孤児が人身売買の標的に

コロナ禍で親を亡くした子供にお悔やみの言葉を伝えることも避けるべきだと、バルミは言う。それよりも、親がいた頃の家庭と似た環境で過ごせるよう配慮すべきだという。

「そうすれば、子供たちは喪失感を抱かずに済む。それに、子供らしい興味の対象を追求する機会を与えることは、精神が沈むような経験を乗り越える上でも効果がある」

前出のクンドゥによれば、ソーシャルメディアには、親を亡くした子供を養子にしてほしいという趣旨の書き込みがあふれている。

しかし「そのような行為は完全に違法だ」と、クンドゥは警鐘を鳴らす。「子供たちを人身売買の被害者にしかねない」。ソーシャルメディアに書き込む人たちは善意で行動しているのかもしれないが、子供たちを危険にさらす恐れがあるのだ。

「養子縁組をしようとする人物に対しては、政府機関による身元調査が不可欠だ。養子縁組をオンラインビジネスと同じように考えてはならない」と、クンドゥは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中