最新記事

ジェンダー

大学受験で女子のチャレンジを妨害する「ジェンダー・プレッシャー」

2021年5月26日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
勉強する女子学生

どの大学の受験機会も両性に等しく開かれているが miya227/iStock.

<難関大学では、受験者数の段階で女子の比率が低くなっている>

東京大学は、新執行部の半数以上を女性にする方針を掲げている。意思決定に多様な視点を取り入れると同時に、女子学生を増やすこともねらいだ。

東京大学の公表統計によると、2020年5月時点の学部学生は6257人で、うち女子は1214人となっている。女子の比率は19.4%で2割に達しない。同大学の学生生活実態調査によると、2000年11月時点の女子学生比率は17.5%で、過去20年間で数値はほとんど変わっていない。このことも、上記のような判断の材料になったと見られる。

全国の大学生の女子比率は45.5%で、男女の偏りはほとんどない(2020年5月、文科省『学校基本調査』)。しかし東大に限ると、上述のように19.4%だ。日本の大学は伝統や威信に依拠して階層化されていて、女子学生の比率も階層ごとに異なっている。

①最難関の東京大学、②旧帝大、③国立大学、④大学全体という4つの群を設定し、それぞれの女子学生比率を出してみる<表1>。②の旧帝大は、北大・東北大・東大・名大・京大・阪大・九大を指す。各大学のホームページから必要な数値を得た。③と④の女子比率は、文科省『学校基本調査』から算出した。

data210526-chart01.png

選抜度が上がるにつれ、学生の女子比率は下がってくる。大学全体は45.5%、国立大学は36.8%、旧帝大は27.7%、東大は19.4%という具合だ。

これはどういう事情によるのか。戦前と違って、どの大学の受験チャンスも両性に等しく開かれている。学生のジェンダー・アンバランスは、入試での合格率の性差なのか、それとも女子の受験生そのものが少ないのか。

女子生徒が難関校を避ける「自己選抜」

この点を検討するには、受験者と合格者の性別人数が必要になる。東京大学は前者が非公表だが、京都大学は両方が得られる。2020年度の学部一般入試の「合格者数/受験者数」を男女別に示すと以下のようになる。

・男子=2147人/5656人=38.0%
・女子=578人/1691人=34.2%

合格率は男子の方が4ポイントほど高いが、大きな差ではない。分母の受験者数を見ると、男子は5656人、女子は1691人で受験の時点で人数に大きな差が出ている。女子は男子に比べて、難関大学に挑戦する生徒が少ない(学力は同じであっても)。教育社会学の用語で言うと、事前に「自己選抜」していると見られる。

筆者が高校の頃、九大に行ける力があるのに「女子だから地元の鹿大にしなさい」と言われている生徒がいて、実にもったいないと思ったものだ。こういう圧力は、女子を自己選抜に向かわせる典型要因と言える。「女子は高みを狙わなくてもいい」と言われることもあるだろう。能力分布に性差はなく、女子は自身の才能を十全に開花するチャンスを奪われている。心ないジェンダー・プレッシャーは厳に慎まなければならない。

<資料:東京大学ホームページ「学生数の詳細について」
    京都大学ホームページ「入学者選抜実施状況」
    文科省『学校基本調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中