最新記事

感染症

インドで新型コロナ患者が、真菌感染症(ムコール症)にかかる症例が増加

2021年5月12日(水)20時30分
松岡由希子

新型コロナから回復した患者が真菌感染症「ムコール症」に感染する症例が増加 moneycontrol-YouTube

<インドでは、新型コロナから回復した患者が真菌感染症「ムコール症」に罹患する症例もみられ、適切に治療しなければ死に至るおそれもある...... >

インドでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、2021年5月11日時点の1日の感染者数が約33万人、死亡者数が3800人以上と、依然として深刻な状況が続いている。

新型コロナウイルス感染症から回復した患者が真菌感染症「ムコール症」に罹患する症例もみられ、インド医学研究評議会(ICMR)は「適切に治療しなければ死に至るおそれもある」と警鐘を鳴らしている。

ある医師は、約40人の患者のうち11人に眼球摘出手術を行った

ムコール症は、土壌や朽ちた葉、木などで繁殖し、土壌や空気、健康な人の鼻や粘液にも存在する真菌(カビ)の一種「ムコールミセテス」によって引き起こされる感染症だ。

皮膚の切り傷や擦り傷から体内に侵入したり、真菌胞子を吸い込むことで副鼻腔や肺に定着すると、血流を通じて広がり、脳や目、脾臓、心臓などの器官に影響を与えることがある。一般的には、糖尿病患者や免疫抑制薬を服用している人など、免疫系が弱っている人が罹患しやすい。

インドの日刊英字紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」の報道によると、西部マハラシュトラ州では、新型コロナウイルス感染症から回復した200人がムコール症を発症。

北西部グジャラート州では、ムコール症の患者が100人以上確認され、その治療に用いる抗真菌薬「アムホテリシンB」が供給不足に陥っている

BBC(英国放送協会)の取材に応じたマハラシュトラ州ムンバイの眼科外科医アクシャイ・ナーヤル医師は、4月だけで約40人のムコール症の患者の治療にあたり、そのうち11人に眼球摘出手術を行った。患者の多くは、自宅療養で新型コロナウイルス感染症から回復した糖尿病患者であったという。

新型コロナの治療で用いられるステロイドが関与している可能性

インド政策委員会のメンバーのビノッド・ポール医学博士は、5月7日の記者会見で「新型コロナウイルスに感染し、回復した後にムコール症にかかる患者がいることは承知しているが、現時点では、その症例はまだ多くない」との認識を示している。

専門家は、新型コロナウイルス感染症から回復した人がムコール症に罹患している原因として、新型コロナウイルス感染症の治療で用いられるステロイドが関与している可能性を指摘する。ステロイドは免疫系を抑制するためだ。また、病床の逼迫により、多くの感染者が自宅療養を余儀なくされ、適切でない衛生環境下で酸素療法を行ったことも要因のひとつではないかと考えられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中