統計上の失業率では見えない「潜在失業者」に目を向けよ
これは15歳以上人口の数値だが、年齢によってかなり異なる。2つの失業率を年齢層別に計算し,折れ線グラフにすると<図2>のようになる。ジェンダーの差も見るため、男女で分けている。
青線は求職者を分子にした狭義の失業率、オレンジ色は求職者と非求職者を分子とした広義の失業率だ。どの年齢層でも2つの失業率は乖離しているが、男性より女性でそれが顕著だ。30代では10ポイント以上も違っている。求職したくてもできない、幼子を抱えた女性がいるためだろう。
25~44歳の有配偶女性に限定すると、求職者は56万人、非求職者は118万人にもなる。前者を分子とした狭義の失業率は6.4%だが、両者の合算を分子にした広義の失業率は19.7%にもなる。働きたいと思っている母親の5人に1人が職に就けないでいる。
この年代の既婚女性が求職活動すらできない理由の大半は、「出産・育児のため」だ。これがいかに重いかは、求職者と非求職者の差に表れている。子がいる女性が職を得るのは容易ではないが、それを可視化するには広義の失業率でないといけない。
25~44歳の有配偶女性の広義失業率を都道府県別に出すと、最も高いのは神奈川の24.7%、2位は埼玉で24.1%、3位は兵庫で23.2%となっている。値が高いのは都市部で、幼子を預ける保育所の不足、子を頼める親(祖父母)が近くにいないことなどによるだろう。共稼ぎが求められる時代だが、上記の失業率には子育てファミリーの苦境、子育ての困難のレベルが表れているとも言える。
事実、25~44歳の有配偶女性の広義失業率は出生率と有意な相関関係にある<図3>。子育て年代の女性の広義失業率が高い、家計維持に必要な収入が得にくい県ほど出生率が低い傾向がみられる。相関係数は-0.4841で、沖縄を外れ値として除くと-0.5264となる。求職者のみを分子とした狭義の失業率では、浮かび上がらない傾向だ。
子を持つと職に就けない、家計が逼迫する。よって出産を控える......。こうなるのは道理で、今の日本は出産・子育てに伴う損失が大きい。保育所整備等の必要性について改めて認識させられる。
コロナで切られたのは誰か? 答えは女性、とりわけ非正規雇用の女性だ。コロナ禍に見舞われて以降、非正規女性の数はガクンと減っている。しかし女性の失業者は増えていない。これをもって、女性は働く必要がないからだろうと思ってはいけない。ハローワークにやってきた求職者(統計上の失業者)の背後には、求職すらできないでいる潜在失業者が数倍いる。2020年の春、全国の学校が一斉休校し、小さい子がいる母親は家に縛り付けられる事態となった。こうなると求職どころではない。
政府発表の失業率だけでは、事態を正確に把握できそうにない。広義の失業率も提唱したい。
<資料:総務省『就業構造基本調査』2017年>