最新記事

日本社会

統計上の失業率では見えない「潜在失業者」に目を向けよ

2021年5月12日(水)13時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

これは15歳以上人口の数値だが、年齢によってかなり異なる。2つの失業率を年齢層別に計算し,折れ線グラフにすると<図2>のようになる。ジェンダーの差も見るため、男女で分けている。

data210512-chart02.png

青線は求職者を分子にした狭義の失業率、オレンジ色は求職者と非求職者を分子とした広義の失業率だ。どの年齢層でも2つの失業率は乖離しているが、男性より女性でそれが顕著だ。30代では10ポイント以上も違っている。求職したくてもできない、幼子を抱えた女性がいるためだろう。

25~44歳の有配偶女性に限定すると、求職者は56万人、非求職者は118万人にもなる。前者を分子とした狭義の失業率は6.4%だが、両者の合算を分子にした広義の失業率は19.7%にもなる。働きたいと思っている母親の5人に1人が職に就けないでいる。

この年代の既婚女性が求職活動すらできない理由の大半は、「出産・育児のため」だ。これがいかに重いかは、求職者と非求職者の差に表れている。子がいる女性が職を得るのは容易ではないが、それを可視化するには広義の失業率でないといけない。

25~44歳の有配偶女性の広義失業率を都道府県別に出すと、最も高いのは神奈川の24.7%、2位は埼玉で24.1%、3位は兵庫で23.2%となっている。値が高いのは都市部で、幼子を預ける保育所の不足、子を頼める親(祖父母)が近くにいないことなどによるだろう。共稼ぎが求められる時代だが、上記の失業率には子育てファミリーの苦境、子育ての困難のレベルが表れているとも言える。

data210512-chart03.png

事実、25~44歳の有配偶女性の広義失業率は出生率と有意な相関関係にある<図3>。子育て年代の女性の広義失業率が高い、家計維持に必要な収入が得にくい県ほど出生率が低い傾向がみられる。相関係数は-0.4841で、沖縄を外れ値として除くと-0.5264となる。求職者のみを分子とした狭義の失業率では、浮かび上がらない傾向だ。

子を持つと職に就けない、家計が逼迫する。よって出産を控える......。こうなるのは道理で、今の日本は出産・子育てに伴う損失が大きい。保育所整備等の必要性について改めて認識させられる。

コロナで切られたのは誰か? 答えは女性、とりわけ非正規雇用の女性だ。コロナ禍に見舞われて以降、非正規女性の数はガクンと減っている。しかし女性の失業者は増えていない。これをもって、女性は働く必要がないからだろうと思ってはいけない。ハローワークにやってきた求職者(統計上の失業者)の背後には、求職すらできないでいる潜在失業者が数倍いる。2020年の春、全国の学校が一斉休校し、小さい子がいる母親は家に縛り付けられる事態となった。こうなると求職どころではない。

政府発表の失業率だけでは、事態を正確に把握できそうにない。広義の失業率も提唱したい。

<資料:総務省『就業構造基本調査』2017年

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ワールド

IMF、ウクライナ向け支援巡り実務者レベルで合意 

ワールド

ウクライナ和平交渉担当高官を事情聴取、大規模汚職事

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、州兵2人重体 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中