最新記事

ワクチン

アメリカではワクチン接種で集団免疫を達成しつつあるが......

2021年5月10日(月)20時00分
松岡由希子

アメリカでは、人口の45%、1億5千万人が少なくとも1回接種した...... REUTERS/Hannah Beier

<ワクチン接種が進められるアメリカの新規コロナ感染者数は、1月8日の31万2047人のピーク以降、5月8日には3万4159人にまで減少。専門家の多くは「このまま減少傾向が続けば、米国は近々、集団免疫を達成する」との見解を示すが...... >

米国では、2021年2月下旬以降、1日200万回以上のペースで国民のワクチン接種をすすめ、5月9日時点で人口の45.8%にあたる1億5211万人が少なくとも1回接種し、34.4%にあたる1億1425万人が2回目の接種を終えている。

新規コロナ感染者数は、1月の31万人から3万人に減少

新型コロナウイルスワクチンの接種率の上昇に伴って、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は減少している。米国の新規感染者数は、31万2047人のピークに達した1月8日以降、減少傾向となり、5月8日には3万4159人にまで減少した。

専門家の多くは「このまま減少傾向が続けば、米国は近々、集団免疫を達成する」との見解を示す。集団免疫とは、ある集団で一定以上の割合がウイルスに対する免疫を獲得することで、ウイルスの感染が他者に広がりづらくなり、流行しなくなる状態をいう。

理論上は「感染者1人が何人に感染させるか」を表わす「実効再生産数」が1を下回ると、その集団は集団免疫を達成したことになる。

新たな変異株が生まれれば、集団免疫の閾値も変化する

自然感染やワクチン接種によって免疫を獲得する人の割合が増えれば実効再生産数は低下するが、感染力の強い変異株が出現したり、人と人との接触機会が増えれば、実効再生産数は上がる。

つまり、検査ですべての感染者を把握し、ゲノム分子疫学調査で変異株を追跡し続けない限り、新型コロナウイルスの感染拡大がいつ終息するのかを精緻に予測することは困難だ。

集団免疫の閾値は、単一固定的なものではない。米ジョンズ・ホプキンス大学の疫学者デイビッド・ダウディー教授は、デジタルメディア「ビジネスインサイダー」で「人々の行動が変容したり、季節が変化したり、新たな変異株が生まれれば、集団免疫の閾値も変化する。一度達成すればよいというような『魔法の値』はない」と指摘する。

集団免疫を達成し、これを維持するためには、変異株にも予防効果のある「ブースターワクチン」の開発とその追加接種がカギだと考えられている。

しかし、26%が「新型コロナウイルスワクチンを接種したくない」と回答

国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は「集団免疫を達成するためには、米国人口の70〜85%がワクチンを接種する必要がある」と提唱する。集団免疫の達成に向けて子どもへのワクチン接種もすすめられており、新型コロナウイルスワクチンを開発するファイザーモデルナでは、6ヶ月の乳児から11歳の子どもを対象とした臨床試験に着手。

ニューヨークタイムズCNNの報道によれば、近々、ファイザーとビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」の12〜15歳の子どもへの使用をアメリカ食品医薬品局(FDA)が許可する見通しだ。

米国でのワクチン接種のペースは4月中旬の1日320万回をピークに鈍化。その原因のひとつとして、ワクチン接種に消極的な人がいまだ少なくないことが指摘されている。CNNが4月21〜26日に実施した電話調査では、26%が「新型コロナウイルスワクチンを接種したくない」と回答している。

How close is San Francisco to herd immunity against COVID-19?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中