最新記事

研究

ロジカルな思考は1歳児の時点で始まっている...子供の「選言的三段論法」

Babies and Logic

2021年5月21日(金)12時01分
カシュミラ・ガンダー
ブロックのおもちゃで遊ぶ赤ちゃん

ULZA/SHUTTERSTOCK

<ジョンズ・ホプキンズ大学の実験で、1歳の乳児でも非論理的なことを「おかしい」と気付けることが明らかに>

赤ちゃんは言葉を話す前から論理的な思考をしている。そんな驚くべき研究結果が発表された。

科学誌サイエンスに掲載されたジョンズ・ホプキンズ大学チームの論文によれば、赤ちゃんは論理学で言う「選言的三段論法」で考えている。「AかBが真で、Bが偽なら、Aが真である」という論法だ。

もちろん言葉でこんなロジックを展開できているわけではないが、赤ちゃんの頭の中ではこんな推論が行われているらしい。だとすれば、論理的な思考ができるのは7歳以降とした発達心理学者ジャン・ピアジェの「認知発達段階」説が覆されることになる。

研究チームは1歳から1歳半の乳児48 人を対象に実験を行った。この時期には言語能力の発達が始まるが、まだ1つの単語で簡単な意思表示ができる程度だ。

認知障害の診断に応用できる可能性も

実験では乳児に単純なアニメーションを見せる。画面には2つのアイテム、例えば花と恐竜が表示される。次にこの2つがバリアーで隠され、続いて画面にカップが現れて、どちらか1 つ、例えば恐竜をすくい取る。バリアーが外されると、花だけが残っているはずだ。もしも恐竜が残っていたら、論理的に考えておかしい状況ということになる。

言葉を話せない赤ちゃんの知的能力を調べる実験では、眼球の動きを追跡する方法がよく使われる。この実験でもその方法が採用され、非論理的な結果が示されたときには子供たちは画面をより長く見つめることが分かった。つまり「おかしいな?」と思っているということだ。

さらに研究を積み重ねれば、この発見は乳幼児期における認知障害の診断に応用できるかもしれない。今後は「乳幼児や大人、人間以外の動物に共通する初歩的な論理能力を突き止め、その能力を土台に、より高度な論理的思考が形成されるプロセスを探る研究が精力的に進む」と、研究チームはみている。

「多くの親や幼児教育の専門家が気付いていたことが確認された」と、言語療法士のマイケル・ジョーンズは言う。「子供の行動を見ていると、言葉が話せない段階でも、ちゃんと物事を考えていることが分かる。そうした土台をうまく伸ばしてやることで数学的な思考が育つのだろう」

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中