最新記事

韓国

韓国、学生は原発処理水放出に断髪で抗議、専門機関は「科学的に問題ない」

2021年4月23日(金)16時45分
佐々木和義

韓国の専門機関は問題ないという立場

韓国政府や自治体、市民団体などが、処理水を汚染水と呼んで放出に反対する一方、韓国の専門機関は科学的に問題ないという立場だ。

韓国科学技術院のチョン・ヨンフン教授はメディアの取材に対し、日本政府が公表した放出地点の処理水のトリチウム濃度は基準値より低く、一般人の年間被ばく線量基準値である1ミリシーベルトを下回るとし、危険性を強調するのではなく、日本が公開した情報が事実と符合するかどうか確認すればよいと主張した。

韓国の原子力安全委員会も昨年10月、汚染水を浄化する日本の多核種除去設備(ALPS)の性能に問題はなく、韓国の海域に到達しても拡散・希釈されるので影響はないという報告書を作成していた。同委員会は、国際原子力機関(IAEA)の調査や検証への参加を図る方針だ。

外交部は文大統領の指示を受けて、国際海洋法裁判所への提訴を検討するが、これまでにも同裁判所への提訴を検討したことがあり、効果は乏しいという判断を下している。

韓国内の原発で問題を抱える

福島原発に過剰な反応を見せてきた韓国だが、自国内でも問題を抱えている。韓国水力原子力(韓水原)が2016~19年に行なった調査で、10基の原発から777か所の鉄板腐食が発見され、8基の原発から295か所の隙間が発見された。

20年10月には韓国監査院が月城原子力発電所1号機の早期閉鎖に関する監査を実施した際、産業通商資源部の職員が証拠を隠滅していたことが明らかになっている。

月城原発1号機は、1982年に稼働を開始した韓国2番目の原子力発電所で、原子力安全委員会が産業通商資源部の提出資料を基に早期閉鎖を決定したが、同部が脱原発を宣言した文在寅大統領の意向に沿った評価を行っていた可能性が浮上した。

韓国監査院が監査を実施した前日夜、同部の職員が444件のコンピューターファイル名を変更、削除するなど「証拠隠滅」を図っていたことが判明した。

地下水の汚染も深刻だ。19年10月、飲料用地下水76か所から基準値を超えるウランが検出され、最大で基準値の157倍に達していた。07年にも世界保健機構(WHO)勧告値の109倍のウランが検出されて環境部が、地下水の飲料を禁止したが、汚染の可能性の浮上したのは03年で、4年間も放置されていたのだ。

処理水の海洋放出は、100%安全とは言い切れないが、避けることができない有効な手段だろう。IAEAは一連の作業をモニタリングする国際調査団に韓国の専門家の参加を望む考えを示している。反対のための反対ではなく、前向きな姿勢でIAEAに参加できれば、自国の安全策を講じる上でもプラスに作用するかもしれない。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、EUにメタン排出法の適用除外を要求=政府文書

ビジネス

ウォン安と不動産価格上昇、過剰流動性だけが背景では

ビジネス

12月の豪消費者信頼感指数、悲観論が再び優勢 物価

ビジネス

ベトナムEVビンファスト、対インドネシア投資拡大へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中