米コインベース上場、仮想通貨が金や為替と並ぶ主流資産に食い込む起爆剤となるか
そのため長年にわたり暗号資産の存在を「見て見ぬ振りをしていた」伝統的な投資家も、今後は想像以上に大きく成長し、制度化も進んでいる暗号資産を考慮に入れたポートフォリオ形成を余儀なくされるとし、これが資本市場における「ゲームチェンジャー」になると評した。
実際、今回コインベースについた高い評価額は、暗号資産市場が重要な分岐点に差し掛かっていることを投資家も認識している様子を裏付ける証拠と言えるかもしれない。
暗号資産をめぐっては、テスラが仮想通貨の代表格であるビットコインを今年大量に購入したうえ、電気自動車(EV)購入時の決済にビットコインを受け付けると発表したほか、クレジットカード大手ビザや決済大手ペイパルも暗号資産での支払い対応を決めるなど、これら通貨が実社会に確実に入り込みつつある印象を受ける。
暗号資産界のグーグルとなるか
著名投資家のロン・コンウェイ氏は、暗号資産とこれを取り巻く技術や企業を含む「クリプトエコノミー」が「次の数兆ドル規模のイノベーション機会」になるとの見方を示し、その中核に位置するコインベースを「クリプトエコノミーのグーグル」と呼んだ。
ただ、コインベースの上場が話題を集めたからと言って、同社や市場全体が前途洋々というわけではない。
何よりもまず、コインベースは成長モメンタムをめぐる不確実性が非常に高い。上場に先立ち同社が発表した1−3月期決算によると、最終利益はすでに黒字化を達成し、前年通期の2倍超に相当する7億3000万〜8億ドルに急増した。だがこの96%をトランザクション手数料で稼いでおり、その他事業はまだわずかにしか寄与していない。
つまり、価格変動を受けて取引が細れば、同社の収益も一気に縮小する恐れがあるということだ。足元では暗号資産の取引が極めて活発化しており、これが特にビットコインの価格に連動しやすいコインベースの収益を顕著に押し上げているものの、これら資産はいまだに投機色が強いためボラティリティが極めて大きい。
さらに、市場の拡大に伴い規制が厳格化されることも必至だ。コインベースの共同創業者兼CEOのブライアン・アームストロング氏は「暗号通貨事業に関して言えば、規制が(サイバーセキュリティと並ぶ)最大のリスクの1つだ」と語っている。
ビットコインなどは一般への認知が広がり、企業や金融機関もこの波に逆らわずにトレンドに乗ろうとしている。ただ、政策当局者の間では暗号資産に対する懐疑論が根強く残っているのも確かだ。FRBのパウエル議長は今週、こうした通貨について「投機手段に過ぎず、決済手段として積極的に用いられてはいない」との認識を示した。
コインベースは、自由かつ公平でオープンな金融システムを構築し、「世界の経済的自由度を高める」ことをミッションとして掲げている。暗号資産界のグーグルとして市場発展の中心的存在を担えるか、それともかつてのネットスケープやAOLのように一時期のブームを経て影を潜めるようになるかは、今後の同社の舵取り次第となろう。
ジェンキンス沙智
フリーランスジャーナリスト兼翻訳家。
テキサス大学オースティン校卒業後にロイター通信に入社し、東京支局で英文記者としてテクノロジー、通信、航空、食品、小売業界などを中心に企業ニュースを担当した。2010年に退職・渡米し、フリーランスに転向。これまでに、WSJ日本版コラム「ジェンキンス沙智の米国ワーキングマザー当世事情」を執筆したほか、週刊エコノミストやロイターなどの媒体に寄稿した。現在は執筆活動に加え、大手金融機関やメディアを顧客に金融・ビジネス・経済分野の翻訳サービスを提供している。JTFほんやく検定1級翻訳士(金融・証券)。米テキサス州オースティン近郊在住、愛知県出身。
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