最新記事

地球

緑豊かな森林が枯死する「ゴーストフォレスト」が米国で広がっている

2021年4月9日(金)19時30分
松岡由希子

米国の大西洋沿岸で森林が枯死する「ゴーストフォレスト」急速に広がっている...... Google Earth -Emily Ury

<米ノースカロライナ州東部のアリゲーター・リバー国立野生保護区では、1984年以来、伐採や開発が行われていないにもかかわらず、森林の4分の1が消滅したことがわかった...... >

気候変動に伴う海面上昇や異常気象によって、陸地により多くの海水が浸入し、かつて緑豊かであった森林が枯死してしまう「ゴーストフォレスト」が、米国の大西洋沿岸で急速に広がっている。

森林の11%がゴーストフォレストとなった

米デューク大学の研究チームは、地球観測衛星「ランドサット」が1985年から2019年までに高度430マイル(約692キロ)から撮影した地表の画像を用いて、ノースカロライナ州東部の大西洋岸沿いに位置する24万5000エーカー(約991平方キロメートル)のアルバマール=パムリコ半島の植生の変化を分析し、その研究成果を2021年4月4日、学術雑誌「エコロジカル・アプリケーションズ」で発表した。

これによると、わずか35年で、このエリアを被覆する森林の11%がゴーストフォレストとなった。なかでも、5年にわたる干ばつに続いて2011年8月にハリケーン・アイリーンが上陸したことから、2011年から2012年の1年で3510〜5490ヘクタールものエリアがゴーストフォレストとなっている。

研究チームは、分析対象となったエリアのうち、固有の森林湿地やアメリカアカオオカミなどの絶滅危惧種を保護する「アリゲーター・リバー国立野生保護区」に注目した。アリゲーター・リバー国立野生保護区では、1984年に創設されて以来、伐採や開発が行われていないにもかかわらず、1985年時点の森林の4分の1に相当する4万6950エーカー(約190平方キロメートル)以上の森林が消失した。また、この森林損失の過半は海岸から1キロ以上離れた内陸で起こったという。

森林損失の要因のひとつとして海面上昇があげられる。ノースカロライナ州の沿岸では1900年から2000年までに海面が約1フィート(約30センチ)上昇した。海面上昇のペースは世界の平均値よりも速く、今世紀末までには2〜5フィート(約60〜150センチ)上昇するおそれがある。

排水用の溝や用水路から海水が流入した

研究論文の筆頭著者でデューク大学の博士課程に在籍するエミリー・ユーリさんは、アリゲーター・リバー国立野生保護区の大部分が海抜2フィート未満であることから「海面上昇に対してより脆弱なエリアだ」と指摘するする。

これに加えて、20世紀半ばに設置された排水用の溝や用水路が海水の「導管」となった。淡水の塩分濃度の約400倍にのぼる海水が流入し、土壌に塩が残留すると、塩耐性の低い樹種はやがて枯死し、森林が塩性湿地に変わる。

さらに、2011年のハリケーン・アイリーンでは、6フィート(約180センチ)もの高潮が押し寄せて、アリゲーター・リバー国立野生保護区を襲い、海岸から1.2マイル(約1.9キロ)以上離れた内陸まで達した。

ユーリさんは、「ノースカロライナでは、地質学的要因により、他の沿岸地域に比べて海面上昇が進行しているにすぎない」とし、「この研究成果は、他の地域での『ゴーストフォレスト』化の抑制に向けたマネジメントに役立つだろう」と述べている

●参考記事
北極の氷が溶け、海流循環システムが停止するおそれがある
こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒の動画で示される
北磁極の移動速度が加速している......シベリアに向けて移動し続ける

The Seeds of Ghost Forests

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中