最新記事

ミャンマー

繰り返されるミャンマーの悲劇 繰り返される「民主国家」日本政府の喜劇

2021年4月5日(月)11時30分
永井浩(日刊ベリタ)

日本政府のミャンマーとの関係とは、軍事政権とのものでしかなく、国民は視野に入っていなかった。外務省は、民主主義の否定という点では軍政と「共犯者」といっても過言ではなかった。そしてこの体質は、現在にいたるまで基本的に変わらなかった。

軍政が国際社会からどのような批判を浴びる仕打ちを自国民に繰り返そうと、日本政府はつねに民主化運動を弾圧する側に寄りそいつづけた。1988年の民主化運動を今回のクーデター後とおなじように市民への無差別銃撃によって血の海に沈めたあと、90年の総選挙の結果を尊重する公約しながら、ふたを開けてみるとNLDの圧勝という結果になると、公約を反故にして権力の座に居座りつづけた非合法政権に対して、である。そして、2020年11月の総選挙でまたNLDが圧勝すると、国軍はクーデターで国民の圧倒的支持を得た合法政権を葬ろうとした。クーデターに反対する「市民不服従運動」が全国的な高まりを見せると、国軍はなりふり構わず子どもたちにまで発砲をつづける。

ミャンマーの悲劇に一刻も早く終止符を打たねばならないとする国際世論をうけて、米国、EUなどの政府は国軍への制裁措置をつぎつぎに打ち出している。日本政府は同盟国米国の顔色をうかがいつつ、国軍とのしがらみを断ち切れないまま、「われわれは民主化をもとめるミャンマー国民の側に立つ」との明確な意思を打ち出せず右往左往するだけである。

「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」とは、マルクスの有名な言葉である。ミャンマーの国軍は、自国民を悲劇に陥れる蛮行を繰り返そうとして、「王様は裸である」と叫ぶ圧倒的多数の国民の声に耳をふさぐ喜劇の主人公を演じている。王様の親友であることで「民主主義国」という自らの看板を汚す悲喜劇を演じてきた日本政府は、いつまで国際社会の物笑いとなるような役回りをつづければ気がすむのだろうか。

*この記事は、日刊ベリタからの転載です。

*筆者の記事はこちら

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 5
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中