ソウル市の「差別的」全外国人コロナ検査、文在寅外交にも悪影響が
ソウルで始まった外国人対象のPCR検査は国内外から批判を浴びている AP/AFLO
<外国メディア、大使館、さらには国内の与野党議員も批判。米政府のインド太平洋戦略に参加せず、独自外交でASEANや南アジアとの協力体制を深めるはずだったが...>
韓国の首都ソウルで3月17日、全ての外国人労働者に新型コロナウイルスの検査を義務付け、違反者に罰金を科す行政命令が出され、国内外に大きな波紋を投げ掛けた。
外国メディアに加え、イギリス、カナダなどの在韓大使館や政府も排外主義的な政策だとして懸念を表明。韓国の与野党議員も差別的な命令は国際的なイメージの低下につながると批判し、韓国国家人権委員会は外国人への憎悪を助長しかねないと警告した。
高まる批判に慌てた市当局は19日に命令を撤回し、罰則なしの勧告に改めた。韓国の丁世均(チヨン・セギュン)首相はコロナ対策では外国人に細やかな配慮をするよう自治体に求めたが、ソウル近郊の京畿道や南部の全羅南道などもソウル市と同様の命令を出しており、今も撤回していない。
人手不足に悩む韓国は「雇用許可制」の下、南アジアや東南アジアから未熟練労働者を大量に受け入れている。危険で劣悪な労働環境で酷使されるケースも多く、外国人労働者の処遇は以前から問題になっていた。
外国人労働者への検査義務付けは感染拡大の防止に有効とのエビデンスがない。強行すれば、韓国に出稼ぎ労働者を送り出している国々との外交関係にも悪影響を及ぼす可能性があり、文在寅(ムン・ジェイン)政権が掲げる「新南方政策(NSP)」の足を引っ張りかねない。
韓国のコロナ対応はおおむね高く評価されているものの、集団感染が起きた宗教団体への激しいバッシングなど負の側面も指摘されている。文政権がNSPで協力体制を組もうとしている国々の出身者が特に、こうした負の側面の犠牲になっている現実がある。
米中対立が激化するなか、文政権は双方と一定の距離を取る独自外交を展開中で、米政府のインド太平洋戦略には参加していない。NSPはこの戦略を補完する政策ともみられている。
ASEAN加盟国とインドとの経済、文化、安全保障における協力体制の深化を目指すNSPは、人、繁栄、平和を意味する英語の頭文字を取って3P構想とも呼ばれている。人的交流と相互理解を重んじ、韓国で暮らすASEAN加盟国出身者らの生活向上もうたっている。だが韓国の一般市民の間では東南アジアや南アジアの文化に対する関心は薄く、相互理解や交流は絵に描いた餅の感がある。
韓国には250万人の外国人労働者とその家族が暮らすが、ASEAN加盟国の出身者はその5分の1以上を占める。在留外国人の処遇、とりわけ行政当局の扱いがNSPの成否に影響を及ぼすことは疑問の余地がない。