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生物「イカには自制心が備わっている」との研究結果
「学習能力と自制心との関連が、霊長類以外で確認されるのは初めてだ」Charlotte Bleijenberg-iStock
<英ケンブリッジ大学などの研究によると、イカには、自己の衝動や感情を制御し、目の前の誘惑に屈することなく辛抱する自制心があることが明らかとなった......>
ヨーロッパコウイカには、チンパンジーやカラス、オウムのような脳の大きい脊椎動物と同様に、将来のより大きな成果のために自己の衝動や感情を制御し、目の前の誘惑に屈することなく辛抱する自制心があることが明らかとなった。
人間の子どもの自制心を調べる実験として、米スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル教授が1970年代に実施した「マシュマロ実験」が広く知られている。これは、今すぐにマシュマロを1個もらうか、しばらく辛抱して待った後にマシュマロを2個もらうかを、子どもに選ばせるというものだ。
「最長130秒間、辛抱するものもいた」
英ケンブリッジ大学と米ウッズホール海洋生物研究所(MBL)の共同研究チームは、マシュマロ実験を応用し、ヨーロッパコウイカ6匹に、キングエビのかけらをすぐに食べるか、しばらく辛抱して好物の生きたグラスシュリンプを得るかを選ばせる実験を行った。2021年3月3日に「英国王立協会紀要B」で発表された研究論文によると、「6匹すべてがキングエビを無視し、50秒以上、グラスシュリンプを待った。なかには、最長130秒間、辛抱するものもいた」という。
この実験では、水槽内に、透明の扉がついた部屋を2つ設置。扉がすぐに開いてキングエビのかけらを食べられる部屋を丸印、10〜130秒後に扉が開いて生きたグラスシュリンプを得られる部屋を三角印、扉は閉じられたままでグラスシュリンプがいる部屋を四角印で表わし、ヨーロッパコウイカにこれらの印を覚えさせた。なお、ヨーロッパコウイカがキングエビを食べてしまうと、グラスシュリンプは取り除かれる。
実験の結果、ヨーロッパコウイカは、丸印の部屋と三角印の部屋が置かれると、より好物のグラスシュリンプを得ようと三角印の部屋の扉が開くまで待つが、丸印の部屋と四角印の部屋では、このような行動はなかった。
さらに研究チームは、学習訓練の途中に課題の正負を逆転させて、さらに訓練を継続させる「逆転学習」の実験を行い、ヨーロッパコウイカの学習能力を調べた。水槽内に灰色のマークと白のマークを貼り付け、ヨーロッパコウイカに一方の色のマークと褒美を関連づけて覚えさせたのち、これを逆転させ、他の色のマークと褒美を関連づけた。その結果、グラスシュリンプをより長時間待つ自制心の強いヨーロッパコウイカは、色のマークと褒美との関連をより速く学習した。
「学習能力と自制心が、霊長類以外で確認されるのは初めてだ」
研究論文の筆頭著者でケンブリッジ大学のアレクサンドラ・シュネル博士は「学習能力と自制心との関連はヒトやチンパンジーに存在するが、霊長類以外で確認されるのは初めてだ」と述べている。すなわちこれは、学習能力と自制心との関連が、系統の異なる生物種間で類似した形質を個別に進化させる「収斂進化」であることを示すものともいえる。
ヨーロッパコウイカの自制心が進化した理由として、「生存戦略としての擬態の副次的効果ではないか」との仮説が示されている。ヨーロッパコウイカは多くの時間を擬態して過ごし、一瞬の採餌の機会にのみ、擬態を中断させて、その姿をさらす。シュネル博士は「よりよい獲物を待って選び、採餌を最適化させるうちに、自制心が進化してきたのではないか」と考察している。