最新記事

韓国

「自衛隊は3段階で攻めてくる」韓国軍の危ない空想

2021年2月12日(金)20時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅政権下の韓国は、国際政治のバランス感覚を失っているように見える Jeon Heon-Kyun/Pool/REUTERS

<韓国軍当局は昨年、新兵器導入の説明資料として日本の自衛隊の侵攻作戦のシナリオを作成していた>

韓国紙・東亜日報は11日、韓国軍当局が「日本の自衛隊の独島(竹島)侵攻作戦のシナリオと、これを防御するわが軍の対応戦力などを明示した内部文書を作成して、昨年12月に国会に報告した」と報じた。同紙はこれについて、米国のバイデン政権が中国けん制のための韓米日三角協力の重要性を強調している状況下、こうした文書の存在が外交的な論難を呼ぶ可能性があるとの懸念を示している。

報道によれば、問題の文書には「自衛隊の独島奪還作戦シナリオ」というタイトルが付けられている。同紙は、このタイトルも問題視している。「奪還」というのは奪われたものを取り返すという意味であることから、「まるで独島が日本の地であるかのように『独島奪還』という表現を使ったのは不適切だという指摘が出ている」としている。

タイトルの表現はさておき、この文書の存在は極めて問題だ。日韓関係は「史上最悪」と言われる状況にあるが、それでも両国は米国を介して安全保障上の友好国だ。間接的な「同盟国」と言っても過言ではない。

この文書が作成された目的について韓国軍当局は、戦略資産(新兵器)導入の妥当性を説明するためだったと説明しているという。しかし、そんな説明には何の意味もない。日本を仮想敵としてシミュレーションしなければ必要性を説明できないような兵器は、現状では必要ないはずだ。それでも「必要だ」と主張するのは、そのような状況がいずれやってくると強く信じているかのような印象を与える。

最近の軽空母導入論議もそうだが、文在寅政権下の韓国はいたずらに日本をライバル視するあまり、国際政治のバランス感覚を失っているように思える。

<参考記事:「韓国の空母は日本にぜったい勝てない」韓国専門家も断言

ちなみに東亜日報の報道によると、この文書は自衛隊が3段階の作戦を取ると想定しているという。第1段階ではサイバー戦と先遣隊の派遣、第2段階ではイージス艦1隻と潜水艦2~4隻、F-15などの戦闘機と早期警戒管制機などを動員して制空・制海権を確保、第3段階でおおすみ型輸送艦とチヌークヘリ(CH-47)、ホバークラフト(LCAC)などで2個~3個半小隊を上陸させるというものだ。

報道によると、このシナリオは2012年12月に日本の研究者が雑誌で発表したシミュレーションを参考にして練られたという。元の雑誌記事がどのような内容かはまだわからないが、果たして自衛隊がこのような行動を起こす状況が実際に生じうるのだろうか。筆者にはとうてい、そのようには思えない。

いくら日韓関係が良くなくても、現在の情勢の中にここまでの状況を予想させる具体的な要素はないだろう。このシナリオは、韓国軍の「空想」に過ぎない。しかしそうであっても、現実の外交に悪影響を及ぼす「危険な空想」ではあるだろう。

<参考記事:文在寅の空母が自衛隊に「ぜったい勝てない」理由...韓国専門家が解説

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ--中朝国境滞在記--』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、19年の死亡事故で和解 運転支援作動中に

ビジネス

午前の日経平均は続伸、朝安後に切り返す 半導体株し

ビジネス

BNPパリバ、業績予想期間を28年に延長 収益回復

ワールド

スペイン政府、今年の経済成長率予測を2.6%から2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中